偽りの恋 ⅥⅩⅡ
千恵の手を握り、車に引き返す。車を戻すため、夕刻までに帰る必要があった。北陸道から長岡JCTで関越高速に入る。関越トンネルを越えた最初のパーキング・エリアで昼食にした。
「さあ、昼でも食べよう。早く降りて・・」
あれから、ずーっと千恵は言葉を交わさない。俺は運転しながら、千恵のことを考えていた。仕方なく、助手席側のドアを開け、千恵の腕を掴んだ。
「嫌よ、降りないわ」
「あ~、やっと人間の言葉を喋った。可愛いマネキンが、隣に座っていると思っていたよ」
俺の言葉に反応した。無表情の顔だが、目が笑っている。
「可愛いマネキンさん、一緒にご飯を食べて頂けますか?」
無表情の顔が緩んだ。人差し指で鼻を弾く。
「本当は嫌だけど、我慢して食べてあげる」
「ワォ~、千恵様、感謝感激」
大げさに喜ぶ。
「もう、金ちゃんなんか大嫌いよ。うふふ・・」
ようやく千恵が微笑む。ミニ・スカートの白く細長い脚が、車から降りる。その様子が眩しく、俺の胸が締め付けられ思わずため息が出た。
「靴は乾いたの?」
機嫌が戻った千恵が気遣う。
「うん、だいぶ乾いたね。ズボンも平気だ」
歩きながら、千恵の服装を垣間見た。上下浅黄色の服装が、千恵の体を引き立てる。
「今、いやらしい目つきで、私の体を見たでしょう?」
「そ、そんなこと無い」
千恵の指摘に、俺は焦る。
「嘘ばっかり言って、金ちゃん狡い・・」
「あ~ぁ、俺の目って、そんなに変かなぁ~」
「ええ、本当に変よ。頭も同じに狂ってる・・」
レストランの入り口まで、言い争った。でも、手だけはしっかり握られている。