ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅥⅩⅣ 

 目を閉じても、千恵の顔が瞼に残る。あの祖母の顔が、優しく微笑んだ。俺はどうすれば・・。自分の安易な行動が招いた結果である。
「うん、ちょっと考えさせてくれ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。だけど、う~ん・・」
 千恵の顔が一瞬明るさを取り戻すも、俺のあやふやな反応に再び顔を曇らす。
「ふ~ぅ。苦しい・・なぁ」
 彼女がため息を吐く。
「千恵ちゃん・・、ごめんな。俺も苦しいよ」
 鼻を弾き、ニコッと笑う。
「好きな金ちゃんを苦しめるなんて、私は考えたくない。そんなの嫌だからね」
「ありがとう、千恵ちゃん・・」
 千恵の純真な気持ちが、俺に伝わる。曖昧な気持ちで、応える訳にはいかないと俺は思った。
「夏休みが終われば、直ぐに修了式がやって来る。その後、研修先へ行くが、どこだか決まっていない」
 千恵が俺の手を握る。
「どこでも構わない。北海道だって、沖縄だって、私は会いに行くもの」
 木々がざわざわと風に騒ぐ。俺の心もざわめく。俺は耐えきれず、立ち上がる。
「さあ、もう行こうか?」
「うん、トイレに行ってくるから、待っててね」
 彼女の後ろ姿を追う。俺の心底にある夢と決意が、あの姿に翻弄されている。あの人や長谷川さんに済まないと思った。佐藤さんだって、決して許さないだろう。
 しばらくして、千恵が戻って来た。
「お待ちどうさま。さあ、帰ろうか・・」
 千恵の飾らない純な顔立ちに、俺の心は引き込まれる。俺の脳は断ち切ろうと努力したが、簡単に断ち切れない。
「ああ、うん、帰ろう・・」
「金ちゃん、元気出してね」
 俺の腕に、彼女の腕が絡む。若い女性の体臭に、俺の脳が容易く承服した。
「もう、元気だよ」
 俺は単純な男だと思った。

×

非ログインユーザーとして返信する