湖畔 (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅵ
若月は急ぎ夏帆の所へ行き、幾度も頭を下げ手を合わせた。その様子に、私は独りほくそ笑む。
一日中仕事に追われ、あっという間に退社時間となった。帰り際に、夏帆が近寄り私を睨んだ。
「大河内主任、邪魔しないでね。今日の夕食は、楽しみにしていたんだから・・」
「あ~、ごめん。分かった・・」
一瞬癪に障るが、反面羨ましくもあった。
「主任、行きましょう」
「ほんの前に、お前の所為で睨まれたぞ。殺されるかと思った。あ~、怖・・」
若月がチラッと夏帆に目をやる。彼女がプイと横を向いた。
「だろう? 相当に怒っているぜ。お前の恋も終着駅だな。俺は知らんからな・・」
「そ、それはあんまりだ」
彼はおろおろするばかり。
「彼女は執念深いぞぉ~」
「主任、やはりデートに行きます」
彼は行ってしまった。退社前に、福沢へ連絡する。
「今晩は・・。昨日の件で、お会いできますか?」
「ええ、いいですよ。できれば研究室に、来られませんか?」
「分かりました。直ぐにお伺いします」
机上を整理してから、退社する。
「主任、行きましょう」
階下のロビーに、若月が待っていた。
「あれ、どうした彼女は?」
「いや~、叱られました。態度があやふやな男は、嫌いだって言われました」
照れ臭そうに、私の顔を見る。私は呆れたが、彼らしいと思った。
「福沢准教授の研究室へ、行くことになった」
「それは、久しぶりだ。あのメンバーにも、会えるのですね」