2017年12月のブログ記事
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
翌週の日曜日、ミサの後に洗礼を受けた。洗礼名はマルシア。マルガリータ園長、佐和やマルコスなどが参列して、洗礼の儀式を見守る。神父が、亜紀の頭上に聖水を注ぐ。 《そう、この水が永遠の忘れ水ね》 亜紀の左手の薬指と首かざりの指輪が、一瞬の温もりを感じさせる。それは、輝明が彼女の洗礼を祝福したと亜紀... 続きをみる
-
三ヶ月後の五月、亜紀は独りで水沢山を訪れた。整備された小道を登る。頂上に立ち、一望の景色を眺めた。季節は異なるが、眺める風景は変わっていなかった。彼女の長い髪の一本一本を、爽やかな風が愛でるように触れて行く。 その風の感触は、輝明が優しく撫でる感覚に似ている。 「あ~、輝君・・」 亜紀は、彼... 続きをみる
-
輝明の兄は、言葉を続けることができない。亜紀は嫌な予感に手が震え、支える何かを求める。心の奥から声を絞り出し、兄が伝えたい言葉を尋ねた。 「お兄さん、輝君・・に、何が・・、起きたのですか?」 「実は・・、弟が、亡くなり・・・ました」 兄の言葉に、亜紀は信じられなかった。 《うそ、うそでしょう。... 続きをみる
-
太田インターから桐生に差し掛かる。高崎まで三十キロ程の地点だった。突然、右前方の車がスリップし、中央分離帯に追突した。その後ろに走行していたトラックが、急ブレーキを掛け輝明の車線側にハンドルを切った。その車は、輝明の前を走るワンボックス車に激突。 「わぁ~、危ない!」 彼は大声を張り上げ、ブレ... 続きをみる
-
成田空港の明かりが遠ざかる。雲間を通り過ぎると、満天の星が輝いていた。その星が涙で歪む。 「マルシア、悲しくて、泣いているの?」 「ううん、悲しい涙ではないの。涙には、沢山の意味があるのよ」 マルコスが、ポケットからティシュを取り出し亜紀に渡した。 「ありがとう・・。これでいいのかと思うと、何... 続きをみる
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
《最後まで読んでくれて、ありがとう。物語の続きは、自由に想像しても結構だ。ワシは無事にゴキ江の許に帰れた。 その後、小笠原諸島の父島へ移住し、愛する妻と楽しい日々を過ごしている。ただ、歩き回ることは困難だ。そして、ワシの息子黒ピカのことを、懐かしく思い出している。 えっ、息子が何をしているかっ... 続きをみる
-
-
ワシは相手にしない。目を閉じ、現実には有りえないことを脳裏に描く。 《神様から不死の体に大きな翅を与えられ、空高く遠くへと飛び回る。もちろん、マリアブリータのブラジルへ・・。むふふ・・》 「うう・・。リーダー、起きてください。寒・・い・・よ~」 ぐっすりと寝てしまったワシを、懸命に黒ピカが揺り... 続きをみる
-
「そ、そんな寂しいことを、言わないでください。独りぼっちでは悲しくて、何もできません」 《お前との別れが、これほど辛く悲しいと思わなかった。命が尽きるまで、お前を忘れない。あ~、息子よ》 翌日の昼。アフリカ大陸の最南端、喜望峰が近づいて来た。 「黒ピカよ、ここでさらばだな」 ヤツが、急に真剣な... 続きをみる
-
「それはない、ワシらは貨物室に乗るからだ」 「え~、飢え死にしちゃいますよ。それなら、や~めた」 「じゃあ、ワシは飛行機で帰る。お前は船で帰ればいい。どうせお前は、横浜へ行く必要があるからな。ワシは一刻も早く、ゴキ江を助けねばならぬ」 「ん~、ん~、船か~、オイラもハム食べたいなぁ~」 「まだ時間... 続きをみる
-
船は大西洋の大海原を渡り、一路アフリカ大陸の南端を目指す。海は荒れることなく、穏やかな後悔であった。 《この船も貨物船だから、人間どもの姿が少ない。周りを気にせずに過ごせそうだ。だが、用心しよう。あの光景は、もうごめんだ。ん? ヤツはどこへ?》 探しに行くと、やはりキッチンにいた。ワシのことな... 続きをみる