ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2017年12月のブログ記事

  •    謂れ無き存在 ⅩⅠ 

     俺は、間違いなく夢の中にいる。ナポリタンの味がする夢の中だ。こんな夢物語が、現実に在り得る訳がない。  たった数時間前に出会って、愛を語り。初めて抱く女性の体。官能的なくちづけ。 《夢なら覚めないで欲しい。真美が幻でなく、本当の真美であって欲しい》 「洸輝、ねえ、洸輝! どうしたの? ボーっとし... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅹ 

     ふたりは話のことを忘れ、気持ちを料理に向けていた。 《この家庭的な雰囲気は、俺にとって無縁な環境だったな。望むことさえ考えていなかった》  俺は鍋の茹るパスタを見詰め、幸せの味を考えていた。 《甘い、辛い、それとも苦いのだろうか。小さい頃は、味なんて考えてもいなかった。施設の仲間とたらふく食べる... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅸ 

    「分かった、一緒に行こう。でもさ・・。その前に、真美のことが知りたい」  俺は気心が知り得たと考え、肝心な事を切り出す。すると、彼女の表情が硬化した。 「話すのが苦痛なら、追々でいいよ」  真美を追い詰める気持ちはない。待つしかないと思った。 「いいえ、話すわ。もう、隠す必要がないもの。洸輝さんに... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅷ 

     俺の唇に、微かに触れた真美の唇。触れる寸前に、彼女の芳しい息が俺の鼻をくすぐる。その柔らかな唇と爽やかな息が、真美の初々しい情味を伝え俺を震撼させた。  真美の真情が理解でき、俺は彼女の肩を引き寄せる。 「あ~、・・・」  真美が甘い吐息をつく。俺の感情の箍が緩み、煩悩で真美の唇を吸ってしまった... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅶ 

     運転中の真美は、真剣な眼差しで前方を見詰めている。白い肌の耳元に、小さなほくろを見つけた。その横顔に俺は見惚れる。 《真美の奥に秘められた、本当の姿が分からない。実際のところ、歳だって曖昧だ。幼く麗かな表情を見せるかと思えば、年上の気品さが滲み出る》  車は彼女の言葉とは裏腹に、可なりの距離を走... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅵ 

     俺はケーキを食べながら考えていた。 《確かに運命で結ばれたとしても、俺の出生や過去のことを知れば、真美は離れて行くだろう。過去を明らかにして、判断を委ねた方がいいかも。彼女を不幸にさせる訳にはいかない》  真美が徐にフォークを置き、カップの紅茶を静かに飲む。そして、俺の瞳を覗き込んだ。俺はそれに... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅴ

     彼女は目を瞑り思案しているようだ。恐らく、俺の心を解釈しているのだろう。目を開けると、二度ばかり首を振る。 「これからは、洸輝さんと呼ぶわ。いいでしょう?」 「・・・」 「そして、私のことを、真美と呼んでね」  俺は唖然とした。 《俺は彼女の言いなりか? 俺の立場は、どうなるんだ? これが与えら... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅳ

     メモを見て、何かを考えていた。 「何を考えているんですか?」 「う~ん、そうね~。一緒に行っても良いかしら?」  俺は興味もなく、行くなんて考えてもいなかった。 「別に・・、だって、俺は行くつもりなんてないから・・」 「いいえ、あなたは必ず行くわ」 「えっ、なんで、行く必要があるの? 俺は行かな... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅲ 

    「俺は、あなたを知りません。初めてですが・・」 「ええ、私もよ。だって、あのセミナーに参加したのは、今日が初めてですもの」 「いや、俺も初めて参加した」  俺は、彼女の瞳を初めて見ることができた。 《なんだ! この瞳は・・。俺の魂が吸い込まれる。あ~、綺麗だなぁ~》  彼女の瞳を見詰めたまま、俺の... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅱ 

    「俺の運命が真っ白! そうですか・・」 「いや、がっかりしなくても、いいと思うよ」  講師は、俺の目を見詰めた。ふっとため息を吐き、俺の肩をポンポンと叩く。そして、一枚のメモを俺に渡した。 【君に話すことがある。いつでも良いから、私の家に来なさい。住所は裏に書いてある。できれば、来る前に電話を掛け... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 Ⅰ 

     今、人は夢の中にいる。本当の現実社会を知らない。それで良いのかと悩む。いや、悩む必要はないのかも・・。夢こそ現実だからだ。人は夢を見ながら生きている。最後の時に、現実を知る。歩んだ人生を後悔するか納得させるか、自らに判断を委ねるためであろう。  人の生き方は、産まれた環境でほぼ決まる。だが、運命... 続きをみる

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  • 続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅳ 

     翌週の日曜日、ミサの後に洗礼を受けた。洗礼名はマルシア。マルガリータ園長、佐和やマルコスなどが参列して、洗礼の儀式を見守る。神父が、亜紀の頭上に聖水を注ぐ。 《そう、この水が永遠の忘れ水ね》  亜紀の左手の薬指と首かざりの指輪が、一瞬の温もりを感じさせる。それは、輝明が彼女の洗礼を祝福したと亜紀... 続きをみる

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  • 続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅳ 

     三ヶ月後の五月、亜紀は独りで水沢山を訪れた。整備された小道を登る。頂上に立ち、一望の景色を眺めた。季節は異なるが、眺める風景は変わっていなかった。彼女の長い髪の一本一本を、爽やかな風が愛でるように触れて行く。  その風の感触は、輝明が優しく撫でる感覚に似ている。 「あ~、輝君・・」  亜紀は、彼... 続きをみる

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  • 続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅲ 

     輝明の兄は、言葉を続けることができない。亜紀は嫌な予感に手が震え、支える何かを求める。心の奥から声を絞り出し、兄が伝えたい言葉を尋ねた。 「お兄さん、輝君・・に、何が・・、起きたのですか?」 「実は・・、弟が、亡くなり・・・ました」  兄の言葉に、亜紀は信じられなかった。 《うそ、うそでしょう。... 続きをみる

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  • 続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅱ

     太田インターから桐生に差し掛かる。高崎まで三十キロ程の地点だった。突然、右前方の車がスリップし、中央分離帯に追突した。その後ろに走行していたトラックが、急ブレーキを掛け輝明の車線側にハンドルを切った。その車は、輝明の前を走るワンボックス車に激突。 「わぁ~、危ない!」  彼は大声を張り上げ、ブレ... 続きをみる

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  • 続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)

     成田空港の明かりが遠ざかる。雲間を通り過ぎると、満天の星が輝いていた。その星が涙で歪む。 「マルシア、悲しくて、泣いているの?」 「ううん、悲しい涙ではないの。涙には、沢山の意味があるのよ」  マルコスが、ポケットからティシュを取り出し亜紀に渡した。 「ありがとう・・。これでいいのかと思うと、何... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   ⅩⅢ 完 

     ホテルの部屋から、兄の家へ電話した。 「はい、金井ですが?」 「あ、お義姉さん? 輝久です。高崎に着きました」 「ああ、お疲れ様。長旅で疲れたでしょうね。今は、どこに?」 「駅前のホテルです。しばらくしたら、病院へ行きます。貴志君に伝えてください」 「まあ、そうなの・・。今まで病院にいたのに・・... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   ⅩⅡ 

     そこにいたのは姉の子、十三歳の順子と十一歳の龍男であった。姉が私を抱きしめたように、私がふたりを抱きしめる。 「姉ちゃん・・。幼いふたりを残し、辛かっただろうね」  ふたりの温もりは姉の温もりであり、無念な姉の気持ちが私に伝わった。おそらく、父も姉の死後四ヵ月は、幼い孫ふたりに慈悲の心で見守って... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   ⅩⅠ 

    「オヤジさんには、早く伝えるように言ったけど・・。お前の気持ちを考えると、知らせる勇気が無かったようだ」 「どうして?」 「病院の説明では、心不全と言われた。亡くなる二日前、お見舞いに行ったが元気な様子だった」 「そうか・・、本当に残念だ。それにしても、オヤジさんは辛かっただろうね」  私は気丈に... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   Ⅹ

     数年後、日系三世の女性と結婚し、三人の子の父親になる。  残念なことに、私が望んだスカウトの開拓農場は既に閉鎖されていた。先輩たちは、其々に活躍できる日系社会の職場で働いている。私は、数人の先輩と日系子弟のボーイ・スカウト隊を結成。私が初代の隊長となった。  大自然を活用するブラジルのキャンプは... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   Ⅸ 

     その日、貸し切りバスに乗り、およそ三時間ほどで細江先生の別荘に到着。別荘は農園に囲まれ、都会の喧騒は聞こえない。清楚な建物が見えると、私の心音は高鳴った。バスから降りる足元が覚束ない。  簡素なベランダに、人影が現れた。子供たちは左手の奥にある広場へ向かう。細江先生が、私の姿を探し当てた。両手を... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   Ⅷ 

    「僕は、この印刷会社を始めて、良かったと思っているんだ。オヤジさんが一番満足している。自分の仕事のように、生き生きとしているだろう」 「じゃあ、兄ちゃんの生きがいは・・?」 「もちろん、ボーイ・スカウトだろうなぁ。この十五年、色々なことを学び教えられた。それに、会社を始めるきっかけにもなったからね... 続きをみる

  •    恵沢の絆   Ⅶ 

     受付の青年が丁寧に道筋を教えてくれた。初めての東京であったが、お陰で迷うことなく、目黒の孤児院を訪ねることができた。真っ黒に日焼けした横山先生は、本部の紹介状に快く応対してくれた。先生は、ボーイ・スカウトの話題では、私が驚くほど熱く語る。それ故に、私の気持ちに理解を示し、細江先生宛の紹介状を書い... 続きをみる

  •    恵沢の絆   Ⅵ 

     翌年の春。兄から渡された月刊誌スカウトの記事に、私の心がすっかり奪われてしまった。 「兄ちゃん! この記事を、読んだ? 俺も応募したいと思うけど、ダメかな?」  兄は、もう一度読み返す。 「ああ、面白そうだね。だけど、お前は中学生だから、応募する資格がないよ」 「そうか、無理か・・」  私はがっ... 続きをみる

  •    恵沢の絆   Ⅴ 

       翌日の午前、病院側が手配した小型バスで、市斎場へ向かった。バスの中の家族四人。車窓から見える景色は、それぞれの思いが重なる。私に見えるのは景色でなく、血に染まった枕に眠る母の顔であった。  私はゆっくり車内を見まわす。姉は俯き、白いハンカチで嗚咽を堪えている。父は、憮然とした様子で目を閉じ、... 続きをみる

  •    恵沢の絆   Ⅳ

    「母ちゃんは、もう・・、自分のことを承知しているんだよ。だから、早く行こう。俺からも、頼む・・」  助手席で黙って前を見ていた父が、重い口を開き兄に告げた。  幸せな家族の温もりが、一瞬にして重い空気へと変わってしまった。私が経験した不思議な空間は、最初で最後の貴重な家族の思い出となったのである。... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   Ⅲ 

     東京オリンピックの年。カラー・テレビが話題となり、我が家もソニーの最新型に買い替えた。母はカラー番組を楽しみに、頻繁に外泊許可を得ては帰って来る。  残暑が厳しい彼岸の一週間前。外泊した母が真剣な眼差しで、兄に心情を訴える。 「佐一郎や! 今度のお彼岸に・・、お墓参りへ連れてっておくれ。お願いだ... 続きをみる

  •    恵沢の絆   Ⅱ

     単車に乗る時は、兄とお揃いの皮のヘルメット。白いウサギの毛が縁取られ、風で顔の肌をくすぐる。私の楽しそうな姿を、羨ましそうに見送る七つ上の姉。その姉も、恐らく寂しい日々を送っていたはずである。  夏休みの姉が、不意に保育園へ私を迎えに来た。園長から早退の許しを得ると、俯くままに私の手を握る。姉が... 続きをみる

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  •    恵沢の絆   Ⅰ  

     乾いた木枯らしが無常の風となり、病室の窓を『コン、コン』と叩く。窓辺のテーブルには、淡いピンクのシクラメンの鉢が一つ置かれていた。清潔な白いシーツのベッド上に横たわる兄。静かな呼吸に、命を繋げるモニターの電子音が『ピッ、ピッ、ピッ』と、一定のリズムで最後の時を刻む。  半時が過ぎようとしている。... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 フィナーレ 

    《最後まで読んでくれて、ありがとう。物語の続きは、自由に想像しても結構だ。ワシは無事にゴキ江の許に帰れた。  その後、小笠原諸島の父島へ移住し、愛する妻と楽しい日々を過ごしている。ただ、歩き回ることは困難だ。そして、ワシの息子黒ピカのことを、懐かしく思い出している。  えっ、息子が何をしているかっ... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅧ 

     ワシは相手にしない。目を閉じ、現実には有りえないことを脳裏に描く。 《神様から不死の体に大きな翅を与えられ、空高く遠くへと飛び回る。もちろん、マリアブリータのブラジルへ・・。むふふ・・》 「うう・・。リーダー、起きてください。寒・・い・・よ~」  ぐっすりと寝てしまったワシを、懸命に黒ピカが揺り... 続きをみる

  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅦ 

    「そ、そんな寂しいことを、言わないでください。独りぼっちでは悲しくて、何もできません」 《お前との別れが、これほど辛く悲しいと思わなかった。命が尽きるまで、お前を忘れない。あ~、息子よ》  翌日の昼。アフリカ大陸の最南端、喜望峰が近づいて来た。 「黒ピカよ、ここでさらばだな」  ヤツが、急に真剣な... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅥ  

    「それはない、ワシらは貨物室に乗るからだ」 「え~、飢え死にしちゃいますよ。それなら、や~めた」 「じゃあ、ワシは飛行機で帰る。お前は船で帰ればいい。どうせお前は、横浜へ行く必要があるからな。ワシは一刻も早く、ゴキ江を助けねばならぬ」 「ん~、ん~、船か~、オイラもハム食べたいなぁ~」 「まだ時間... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅤ 

     船は大西洋の大海原を渡り、一路アフリカ大陸の南端を目指す。海は荒れることなく、穏やかな後悔であった。 《この船も貨物船だから、人間どもの姿が少ない。周りを気にせずに過ごせそうだ。だが、用心しよう。あの光景は、もうごめんだ。ん? ヤツはどこへ?》  探しに行くと、やはりキッチンにいた。ワシのことな... 続きをみる