人の記憶とは、不思議なものである。 消し去りたいと願う記憶はなかなか消えず、がむしゃらに振り返っても全く甦ることのない記憶もある。時として、爽やかな風がフッと脳裏を掠め、心を揺さぶる意地悪な記憶もある。 私の心肝に残る年少期の記憶が、生年六十五を過ぎた頃より日々霞みはじめた。老いた脳裏から散逸する前に、あの思い出を確かめたく故郷の高崎へ半世紀ぶりに訪れてしまった。 駅舎は近代的な駅ビルに…
朝からそぼ降る雨の日。 敏ちゃんが本部へ行こうと迎えに来た。ふたりは傘も差さずに走って本部へ行く。本部には、全員が集まっていた。思い思いに何かをしている。貴ちゃんと浩ちゃんがオレ達を見て集まると、映画製作の話に夢中になった。 そのとき、敏ちゃんが急に不快そうに顔をしかめ、キョロキョロと辺りを見回す。その様子に、オレも異様な臭いに気付く。勇ちゃんが、突然に怒鳴った。 「スカンクは、誰だ!」 …
カブスカウトの二泊三日の宿営キャンプで新潟の海へ行き、帰って来た翌日の朝。隣の家に住む幸雄ちゃんから本部に来るよう言われた。すぐに本部へ行くと、孝夫ちゃんがみんなのTシャツをめくって、肌の焼け具合を調べていた。 「輝ちゃんも見せて」 オレは、言われたとおりに背中を見せる。 「おっ! 輝ちゃんが一番焼けている。勇ちゃん、確認してよ」 「うん、こりゃあいいぞ。輝ちゃんに決めた」 みんなが拍手。…
「仕方ないな、続きは外でやろう」 勇ちゃんが困った顔で、孝夫ちゃんに言った。 「じゃあ、そうしよう。四人はこっちに来てくれ」 外はやぶ蚊だらけで大変だ。オレ達は渋々集まった。敏ちゃんが自分の頬を平手で叩く。オレも左手の甲を刺されたので、ボリボリと掻いた。ほかの皆も叩いたり掻いたりで忙しい。 「貴ちゃんの家に、八ミリカメラがあったよね? それ借りられるかな?」 「うん、大丈夫だと思う」 「じゃ…