湖畔 (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅴ
「えっ、なぜかしら?」
「はい、あなたにとても会いたがっています」
「まあ、そんな・・」
あの世の人とは思えぬ仕草で、顔を赤らめた。
「一度、会ってください」
御堂は俯き、しばらく考える。その様子を眺め、自分でも素敵な女性だと思った。
「会うことは・・、問題無いでしょうけど・・、心を通わせることは、とても危険な行為なの」
「・・・」
「私は下位の世界へ送られ、この世に二度と戻れない。そして、福沢さんは冥府の世に、引き込まれてしまうわ」
切なく語る彼女に、私の心が苦しめられた。
「ええ、それは理解できます。私も苦しみ悩みましたから・・」
「あら、誰のことかしら? ふふ・・」
愉快そうに私の表情を覗き見る。私は慌てて、あらぬ方向へ顔を向けた。
「それでは、近い内にお会いしますわ」
あっという間に姿を消した。私は、しばらく道祖神の前に佇む。ふっと息を吐き、家路につく。
翌日、出社してから、直ぐに若月を呼ぶ。
「若月、今日の退社後、俺に付き合ってくれ・・」
「え~、今晩ですか?」
「なんだ、予定があるのか?」
若月の態度が、さっぱりしない。
「ん~、まだ決めていないけど・・」
彼が、チラッと事務員の夏帆を見た。私は状況を察した。
「分かった。デートの邪魔はしないよ」
「ま、待ってください。内容だけでも、教えて下さいよ」
私はかいつまんで説明する。彼の顔が一変した。
「それなら、主任が優先です」