ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2017年11月のブログ記事

  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅣ 

    「私が話すわ。実は、ブリ―リアに子供ができるの」  黒ピカの代わりに、マリアブリータが説明した。 「なにぃ~、それは・・、お前の子供か?」 「はい、オイラの子供です。そう言われました。でも、ひとりで育てるから、オイラは日本へ帰れと・・」 「いや、お前は残れ! 彼女に、もしものことがあったら、誰が子... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅢ 

     ここは予想以上に居心地がよく、帰国の意思を消し去ろうとする。黒ピカもブリ―リアの計略に嵌ったようだ。  とうと三週間が過ぎてしまった。マリアブリータが仲間を呼び集め、賑やかな集団になっていた。 『ゴキ江! 待っていろ、今助けるからな! 追い駆けても、追い駆けても愛する妻に近づけない。ゴキ江~、ゴ... 続きをみる

  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅡ 

    「私と一緒に暮らすそうよ。これで、私も残りの生活を楽しく生きて行けるわ。ねえ、ブリ―リア! 共同生活する仲間を探しましょう」  ワシは、安心したら無性に食べたくなった。 「さあ、黒ピカ! たらふく食べるか?」 「はい、食べましょう、食べましょう」  二匹の大食い競争が始まった。 「おほほ・・、うふ... 続きをみる

  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅠ 

     マリアブリータの顔が、直ぐ目の前に見えた。ワシが横になっている。この状況はどうしたんだ。 「オ、オヤ・・ジ。・・。リーダー、オイラが分かりますか?」 「お、お前の顔だけは、絶対に忘れない」 「セニョール、しっかりしてください!」 「セニョーラ・マリアブリータ、少し休めば元気に・・。気が張っていた... 続きをみる

  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩ 

    「ワシの話を聞いてくれ! ワシらの仲間には、危険を素早く感知する能力と、いかなる環境にも耐える体質が備わっている。それが三億年という長い時代を、生き延びてきた証明だ。これこそ、神から与えられた本能だ」 「だから、なんだって言うのだ。それは過去の話ではないか」 「そうよ、そうよ。過去の話だわ。現実を... 続きをみる

  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅨ 

    「どう思われますか? 過去の大会では、ここまで活発な意見はなかった。あなたの演説が、仲間の啓発を強く高めたようです」 「少し待ってくれ、講演の内容を冷静に考えていたんだが・・。どうも、仲間に夢を与えたのではなく、残念ながら幻想を与えたようだ。ワシら仲間にできるものは、何も無い。それが現実だ」  マ... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅧ 

     彼女の言葉は、説得力のある言葉であった。黒ピカやゴキジョージは、黙って聞くしかない。 「でも、愛することは、好きを越えた次元の異なる普遍的な感情なの。男女の愛、家族の愛、子弟の愛など。私とセニョール・ゴキータの愛は、仲間の愛なのよ」 「ちょっと待って、なんなの、その普遍的な感情って? 格好いい言... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅦ

     休憩時間が過ぎ、分科会が始まる。各グループがまとめる内容を、ワシは楽しみに待った。その様子を眺めていると、ミスター・ブリジョンソンとセニョール・ゴキペドロが通訳を伴って、ワシの所へやって来た。 「世界本部から、リーダー・ゴキータに特別顧問をお願いする。なにとぞ、就任を受けて頂きたい」 「え~、ワ... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅥ 

    「さて、どこまで話をしたか、忘れてしまった。直ぐに思い出すから・・」 「がんばれ~、だいじょうぶか~?」 「おれが代わりに話そうか? アッハハ・・」 「うふふ・・、私でもいいわよ」 「あっ、そうだ。神や仏の話だったな。信じる者は救われるか・・。まあ、いいや」  少し間をおき、ゆっくりと会場を見渡し... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅤ 

    「いつの日か、人間どもによって、生き物の住めない地球にされてしまう。人間どもは宇宙開発と偽り、ヤツらだけが助かる、別の星を探しているらしい。このワシらの大切な地球を、助けるつもりはない! 捨てて逃げるつもりだ! 本当に卑怯なヤツラだ! 人間どもには頼る神や仏がいるが、ワシらには頼る神はいない!」 ... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅣ

     会場全体がシーンと静まり、ワシの言葉を待った。 「世界中から参加した皆さん! ワシらは三億年前の古生代石灰紀の地球上に誕生し、氷河期や隕石落下など多くの危機や試練を乗り越え、種族の命を受け継いできました。  森林環境に依存し平和に暮らして来たが、人間どもの出現によって、ワシらの生活環境が一変した... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅢ 

    「え? チーズが嫌いなの? 面白い、うふふ・・。でも、セニョールもブラジル語が話せますね? どちらで・・」 「ワシは、単語を並べるだけです。棲み処がセントロ・コムニターリオ・クルツラール(中央公民館)という場所で、ポルトガル語の授業を聞いてました」 「それは、素敵ですね」  ワシは輪の中心にいる黒... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅡ 

    「あっ、あれは口からの出任せです」 「ほ、本当か? ワシは知らんぞ。あの豊満なメスの怖さ・・。あ~ぁ、おぞましいことが起こりそうだ」  ワシは鳥肌が立つ。この旅は、何故か鳥肌が立つことばかりだ。 「なんですか、マダムとの約束とは?」  ゴキジョージが不思議な顔で聞き、触角をピィーンとアンテナのよう... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅠ 

     ブリジョンソンのうんざりする長い挨拶が終わり、各大陸代表の報告発表が始まった。 「初めに、ユーラシア大陸代表の方は、こちらへどうぞ」  誰も壇上へ現れない。会場内がざわつき、ワシと黒ピカはキョロキョロと辺りを見渡した。 「お静かに願います。どうやら、ユーラシア大陸代表のイタリアのゴリジェラーノさ... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩ

    「リーダー、残念ですね。船内で話をした仲間もいたでしょうね」 《ほう、もう冷静になっておる。うふふ・・、少しは成長したと思ってもいいのかな》 「そうだな、残念だが仕方ない。これが、無常の風よ」 「それは、なんの風ですか?」  ヤツは、次の疑問に心を惹かれ、目を輝かした。 「この世の命は、誕生と死滅... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅨ

    「でも、オイラは勉強をしたい。この旅で自分の知識が足りないことを知り、リーダーを目標に頑張りたいと思います」 「照れることを言うな! 旅はまだまだ続く、多くを感じて学ぶことが成長だ。それが、この旅の大切なお前の目的だよ」 「はい、リーダー。しっかり成長します」 《ワシは嬉しいぞ。一緒に旅をしながら... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅧ

     救命ボートに戻るが、隅でジッと動かない黒ピカ。心配するブリ―リアがヤツの体に優しく触れる。ヤツはブリ―リアを抱きしめるが、大きすぎてハグができない。代わりに彼女がハグをすると、黒ピカが押し潰された。その滑稽な様子に、他の仲間たちが冷やかす。黒ピカが、ようやく照れ笑いを見せた。  横浜を出港してか... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅦ

    「大丈夫ですよ。あれらは体調が百十ミリで翅を広げると二百ミリになりますが、敵対心が無ければ友好的ですよ。あれらも人間を恐れています。ペットの食料用に捕獲されているので・・」 「ブリ―リアと同じだ! 可哀そうに・・。誰も信用できない目つきは当たり前だ。リーダー、そう思いませんか? オイラは必ず友達に... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅥ

    「人間どものペットで、ヘビやトカゲなどの爬虫類だってさ・・」  ブリカーノが説明する。すると、隣のゴキジョージが、にやにやしながら話す。 「だけど、俺たちの品評会を開き、艶の光沢具合や走る速さを自慢する愛好家の人間が、世界中にたくさんいるらしいよ」 「クックク・・」 「ムッフフ・・」 「いや、ワシ... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅤ 

    「ん? 何が横に・・」  振り向くと、腰が抜けるほど驚く。なんとワシらより数倍大きい仲間がいた。黒ピカは、恐ろしさに固まって動けない。相手は、ワシらをジッと探る様子で見ている。  長い触角で、黒ピカに触れようか迷っている。ワシは、どうも女の子らしいと気付く。慣れないスペイン語で話し掛けてみた。 「... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅣ

     シャワー室から顔を見せたのは、黒ピカと友達になったハワイのゴキジョージであった。 「アローハ、ジャパニーズ・リーダー!」 「やあ、アローハ! ゴキジョージ、大丈夫でしたか?」 「はい、ハワイのメンバーはノウ プロブレム(問題ない)あなたのお陰です。マハロ(ありがとう)」 「いや、とんでもない。と... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅢ

    「それは、ハワイの仲間だ。アローハ(こんにちは)と挨拶して、英語で話せばいいのだ。まさか、英語がダメなのか?」 「話せませんよ。日本語だけです。オイラには、勉強する暇もなければできる頭も無い。リーダーは話せるのですか?」 「ああ、ワシの棲み処は中央公民館だった。英語教室や国際交流の集いがあり、知ら... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅡ 

     揺れは、日毎に激しくなる。船が傾く方へヨロヨロと歩き、まるで酔っ払いのようだ。ワシはできる限り棲み処で静かにしていた。若い黒ピカは、片時も休まない。ところが、フラフラとヤツが戻ってきた。 「どうした、具合が悪いのか?」 「あ~、気持ちが悪くて、もう歩けない」  ワシの前でバッタリと倒れ、動かなく... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅠ

    「長い道のりだ。安全で快適な、仮の棲み処を探さなければ・・」 「リーダー。それよりも、先に何か、食べませんか?」 「そうだな、前の方からいい匂いがする。行ってみよう」  貨物船のためか、人間どもの姿が少ない。安心して行動ができる。キッチンは意外と広く、清潔であった。直ぐに残飯の在りかを探し当てた。... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅹ

     のらりくらりと言葉を交わすマダムの対応に、言い知れぬ怒りが湧く。もう、我慢ができないとワシは思った。 「とにかく・・、ですな!」  その瞬間、黒ピカがサッとワシの前に出る。豊満なマダムの体を軽くタッチした。 「お美しいマダム・イヤーネ、南米から帰国したら横浜に来ます。死ぬまでお仕え致しますから、... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅸ

     ワシの真剣な表情から、失敗は許されないと理解した黒ピカは、翅をバタバタと動かし気を引き締める。ヨットがうねりの頂点に達した一瞬、岸壁を目がけて飛んだ。  ワシは体操選手のように触角を広げ、華麗なフォームでピッタと着地をする。黒ピカは風に煽られ、コロコロと転んでしまった。 「うっ、痛たた~。もう、... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅷ

     ジェット音が、徐々に大きく響いてきた。 「リーダー、あのとんでもない唸り声は?」 「あれは唸り声ではなく、飛行機の音だ。自動車より数十倍も大きい、空飛ぶ機械だ。 本当なら、あれに乗ってブラジルへ行くはずだった」 「ふぅ~ん、ゴジラが吠えていると思った。半年前に誤って映画館に入ったら、急にゴジラが... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅶ

    「はい、十分に気を付けます。カラスは大嫌いだ。いつもオイラを『バカカァー、バカカァー』と、鳴いて騒ぐ。オイラは、とっくの昔から承知の介だい!」 「アッハハ・・。あ~、腹が痛い。なんとも変わったヤツだな。ハハ・・」  東京湾に近づき、釣り船や観覧船が目まぐるしく行き交う。小さなヨットは船のさざ波に煽... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅵ

     冷や冷やしながら見ていたワシは、何故か神様に祈ってしまった。祈りが通じたのか、黒ピカはようやく着地ができた。 「さあ、出発だ。茎にしっかりと抱きつけ! この茎なら、葉の養分を吸える。少しは腹の足しになるからな」 「は~い、リーダー。だけど疲れたなぁ~」  夜明けと共に、長い未知の旅が始まった。果... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅴ

     夏の虫たちの『リ~ン、リ~ン』と軽やかな音色だけが聞こえる。静かな夜に戻った。 「黒ピカよ! ワシは決めたぞ」  ふと心に浮かんだ案を、出し抜けに告げる。黒ピカは驚き、ピョッコと飛び跳ねた。 「えっ、えっ、何を決めたのですか?」 「渡航方法だ! 近くの烏川から利根川を経て、途中の江戸川を抜け東京... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅳ

    「リーダーの方が、もっと慌てていますよ」 《当たり前だろう。お前に露見したと思った。気付いていないらしいな。それにしても、そんなに似ているのかなあ? 黒く光って母親似と思うが・・》 「うっ、ゴッホン・・、ゴ、ゴキ江、それで支部からの内容は?」 「ええ、それが渡航のことなの。飛行機は空港の検疫検査が... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅲ

    「今日はこれで散会する。近頃、野良猫に食べられる事件が絶えない。くれぐれも用心して帰ってくれ」  集まったものたちは、別れを惜しみながらソロソロとその場から立ち去った。 「黒ピカよ!」 「はい、リーダー・・」 「出発まで、この公園で過ごす。棲み処に戻っても、命の保証はないからな。この場所にこっそり... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅱ

    「さ~てな。ワシらの仲間は寒さに弱いからなぁ~。世界中と言っても、温暖な国や熱帯雨林からの参加が多いはずだ。この地球上には、およそ四千種、一兆四千八百億匹が生息している。参加数は全く想像がつかん。だから、ワクワクしているよ。講演は仲間の夢について、話す予定だ」 「じゃ~ぁ、日本の仲間は~、どれほど... 続きをみる

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  •   嫌われしもの 遥かな旅 Ⅰ

    《これから始まる物語は、あんたら人間どもが、とても理解できないであろうワシらの世界だ。  この地球上に、ワシらよりもずっと後に現れた人間どもよ!  猿人(アウストラロピテクス)から旧人類(ネアンデルタール)、新人類(クロマニョン)に進化してきたと言われているが、ワシらだけが真実を知っている。でも、... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅹ

     その夜、私の荷物はそのままにして、彼の部屋で過ごす。ベッドの中で愛を確かめ、少しでも彼の不安を慰めた。  翌日は、彼の運転で州立公園やマウナ・ケア山などを観光する。彼は歩くとき、常に私の手を携え不安から逃れようとした。私はできる限り甘え、彼の恐怖を和らげようと努める。  夕日が沈むハワイの海を眺... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅸ

     翌日の午前に、ヒロ方面をドライブ。左ハンドルに慣れていないので、神経が張り詰め緊張する。コナ・コーヒー農園に行き、美味しいコーヒーを飲む。行く当てもないドライブは、やはり楽しく過ごせない。況して、常に彼の顔が浮かぶからだ。私はドライブを切り上げ、早めにホテルへ戻った。  ホテルの前に近づくと、日... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅷ

     私は会社に事情を説明して、一週間の有給休暇を取得。直ぐに旅行の手続きを行なう。 三日後に、私は羽田発のハワイアン航空に乗る。およそ七時間のフライトでコナ国際空港に降り立った。開放的な空港に目の前に広がる溶岩帯は、やはりホノルルとは異なるハワイの気分を味わう。  前回は、気の合う友人たちと訪れリッ... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅶ

     ホテルをチェックアウト後、乙女の像の前で落ち合う約束をしていた。半信半疑で私が行くと、間違いなく彼は先に来て待っていた。彼の姿を見た瞬間、私の胸がキュンと締め付けられる。 「おはよう、昨晩は良く眠れましたか?」 「えっ、はい、良く寝ることができました。起きたら、とても爽快な気分でしたわ」  寝不... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅵ

     私は彼と交際してからの期間を、思い返す。三年前の夏に、十和田湖の奥入瀬渓流をひとり訪ねたとき、湖畔の乙女の像を眺めていた私に、横から声を掛けたのが彼だった。 「私は、この作者の道程という詩が好きなんです・・」  彼の声は、囁くように静かな語り口であった。 「えっ? 高村光太郎の詩ですか・・。我が... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅴ

    「初めまして、突然にごめんなさいね」 「いいえ、こちらこそ・・」  彼の姉は、背がすらりとして穏やかに話す人であった。想像したとおり、顔の輪郭や性格が彼に良く似ている。その所為か、初めて会うにしては緊張することも無く、意気投合することができた。  友人から届いた手紙を、姉に見せる。彼女は手紙の内容... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅳ

     仕事から家に帰るたび、あの手紙が気になってしまう。封を途中まで開けたが、決心がつかず止めた。破棄して捨てることもできない。机の引き出しの奥へ、目の前から隠すように仕舞い込んだ。  最初の手紙が届いてから十日過ぎに、新たな手紙が届く。今回の差出人は、女性の名前であった。それも、彼と同じ名字が書かれ... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅲ

    「そうだわ・・、明日、仕事の合間に電話をしてみようかしら・・」  翌日、昼時間に彼の携帯へ電話を掛けてみるが、一向に繋がらない。仕事を終え、再度掛けてみるが通話不能であった。  その翌日も、また翌日も掛けるが、やはり通話不能である。私は胸騒ぎを感じた。  交際初めて直ぐに、職場への電話はしないと互... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅱ

     私は、彼が置いて行った二千円を掴み、レジに支払う。急ぎ店を出た。  外は予想以上に寒く感じ、オータム・コートの襟を立てる。その後、当てもなく歩き、高崎城址公園に来てしまった。  色あせたベンチに座り、疲れた足を労る。人影が少ない。喫茶店のことを思いだした。寂しさはあるが、不思議にも悲しみの涙はな... 続きをみる

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  •   漂泊の慕情  Ⅰ

     暮秋の午後、高崎城址公園の古く色あせたベンチ。日溜まりの温もりを求め、心虚しく座る。目の前に噴水を止められた池。水面に視線を向け茫然と時を過ごす。  足元の枯れ葉が風に煽られ、カサカサと忙しく転がる。使い慣れた薄茶色のバックからヘア・バンドを取り出し、長い髪をひとつに纏めた。  思わぬ破局に心は... 続きをみる

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  • 別れ水 幾星霜  エピローグ 完

     輝明は、渋々と頷くほかなかった。 「前と違って、今は電話で話せるからね。平気でしょう? あなたの声を聞きたいから、ちょくちょく電話をしてね」 「うん、分かったよ。毎日、毎晩電話する。寂しくなったら、ブラジルへ行くさ」 「まあ、それはやり過ぎよ。いい加減にして・・。うっふふ・・」 「そうか、電話代... 続きをみる

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  • 忘れ水 幾星霜  エピローグ Ⅰ

     伊香保から戻った日の夜に、兄家族や会社の従業員を交えた親睦会に呼ばれる。その場は、輝明と亜紀の話題で終始過ごした。輝明は憮然としたり、顔を赤らめたりと忙しかった。亜紀は彼の様子に笑いが止まらない。マルコスも久しぶりに笑顔を取り戻す。  輝明が会社に行っている間、亜紀はマルコスを伴い高崎市内を散策... 続きをみる

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  • 忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅶ 

     翌日、輝明と亜紀は伊香保温泉に出掛ける。その途中、水澤観音を参詣してから、忘れ水が流れる場所を訪れたいと、亜紀が希望した。以前には無かった裏手の駐車場に車を停め、登山口に向かう。 「あら、随分変わってしまったのね」  現在は、登山口から頂上まで整備されている。 「そうさ、若くないボクにも無理なく... 続きをみる

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  • 忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅵ

     祭壇の上から優しい笑顔に愁いを帯びた瞳。輝明にとって、決して忘れない愛する千香の顔である。亜紀には、心を許せた最愛の友であり、彼を結び付けた恩人でもあった。 「不思議ね、私が、千香の家族として見送るなんて・・」 「うん、不思議なことだね。これも偶然かな?」 「そうね、千香が笑っている。そうよ、偶... 続きをみる

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  • 忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅴ

     兄夫婦に、亜紀とマルコスを初めて紹介する。 「亜紀さん、輝坊を宜しく。今、祝うことができない状況で申し訳ない。滞在中に、ゆっくり食事をしたいと考えている」 「いいえ、お兄さんのお気持ちだけで十分です。彼がマルコスです」  マルコスは緊張して、顔を下に向けていた。 「ええ、承知しています。マルコス... 続きをみる

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  • 忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅳ

    「そうだよ。亜紀さんだ。それにマルコスも・・」  千香は幾度も頷く。亜紀は千香の胸に覆いかぶさり嗚咽する。千香が亜紀の頭に手を添え、抱き締めた。その千香の手に、輝明は彼の手を重ねる。 「千香ちゃん、やっと夢が叶えられたね。この高崎に三人が揃ったよ」 「うん、嬉・・しい・・わ。良か・・ね。て・・る・... 続きをみる

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