明恵母さんは、朝から待っていたらしい。家の前に車を停めると、直ぐ玄関口に顔を覗かせた。 「いつ来るかと、落ち着かなかったわ。お帰りなさい」 その様子に俺と真美は、顔を綻ばせる。 「ただいま、お母さん!」 真美は、明恵母さんに抱きついた。俺は、目を合わせ軽く頷く。 「お昼は食べたの? お腹、空... 続きをみる
2018年2月のブログ記事
-
-
ふたりは黙々と食べた。話をする暇も無く食べ終わる。 「ふぅ~、食べた、食べた。満足したよ」 「そうね。でも、デザートが食べたいな。洸輝は?」 「え~、まだ食べるの?」 「当たり前でしょう。デザートを食べなければ、食事が終わりと言えないわ。私はマンゴー・パフェにする」 デザートの名前を聞いた途端... 続きをみる
-
俺は肉の脂が苦手だ。250gの特大ヒレステーキを注文した。真美も負けずに注文。 「真美、本当に大丈夫か?」 「平気よ。お金も胃袋も・・、安心して食べなさい」 真美は、店内を見渡し、何故か嬉しそうな様子。 「どうして、そんなに嬉しそうな顔を、しているんだい?」 「んん、だって、今までは来れなかっ... 続きをみる
-
ふたりは観音様を見上げる。 《こうべを少し垂れ、優しい眼差しで見詰める顔。ふっくらとした顔は、真美に似ているなぁ。とても綺麗で美しい》 「いや、それほどでも・・」 「え、何が?」 「ママたちもここに来て、何かを願ったんでしょうね」 「うん、そうかも・・。さあ、帰ろうか?」 「ええ、帰りましょう。... 続きをみる
-
観音山忠霊塔前の駐車場に車を停めた。ここから眺める高崎市の街並み。陽に輝く市街地と前に流れる烏川。四季折々の景色は美しい。俺は好きだった。 高崎白衣観音まで歩くことにした。参道は平日のため車両が通行可能。意外に車の往来が激しい。歩いている人影は見えなかった。ふたりだけだ。 「もう、紅葉が終わる... 続きをみる
-
「ご、ごめん。どうか、機嫌を直して・・」 俺は手を合わせ、拝む仕草で謝る。何気なくバック・ミラーに目をやると、真美の目に遭遇。ミラーの位置を俺に合わせていたようだ。 「えっ! なんで?」 俺は驚き、彼女の横顔に目を移した。その横顔は、前を見ながら笑いを堪えている。 「うふふ・・」 俺のジャン... 続きをみる
-
「もしかして、車の中にいる人かい? 」 「ああ、そうです」 「凄い別嬪さんだね。女優の誰かに似ているなぁ。本当に結婚するのかい?」 社長は疑い、興味津々に車の真美を見る。 「真美! こっちに来てよ・・」 俺は真美を呼んだ。 「社長が、信じてくれないんだ。俺たちの結婚を・・」 彼女は車から降り... 続きをみる
-
-
腹が減って、我武者羅にハム・エッグを食べようとした。 「オウ、マイ ダーリン! 先に野菜を食べてから・・」 差し出した手を叩き、眉をひそめて注意する。 「えっ?」 俺は一瞬たじろぐ。 「だって、健康は大事よ。長生きしてね。もう、独りになりたくない・・から」 「うん、そうするよ」 俺は素直に... 続きをみる
-
俺は裸の真美を、怖々と抱きしめる。 《これは幻ではない。本当に、現実なんだ・・。この温もり、真美の温もりが愛しい》 「ええ、幻想じゃないわ。漸く・・、独りの生活から抜け出せた。私は幸せよ・・」 「そうさ、これからは独りじゃない。それに、俺も自分の存在を認め、生きる意識が持てそうだ。真美のお陰だよ... 続きをみる
-
-
「君は、このことを知っていたのかい?」 「ええ、知っていたわ。でも、運命の人があなたとは分からなかった」 確かに真美の言うとおりだ。偶然としか思えない。 「そうだね。この二日間が目まぐるしく感じる。精神的に参ったよ」 「洸輝・・、メランコリーにならないでね。心配だわ」 《メランコリー? あっ、そ... 続きをみる
-
明恵母さんが懐妊した喜びを、手紙に認め送ったらしい。俺の母親についても、書かれていた。ただ、三人の交流は徐々に薄れ、便りが遠退く。真美の母親は、寂しさを日記に綴るようになった。 その後、懐妊した真美の母親が、ふたりの親友宛に報告の便りを送る。だが、返事が来ない。 数か月後に、漸く明恵母さんか... 続きをみる
-
「あ、あ~、真美・・」 真美の後ろ姿を見ながら、今の俺には彼女の温もりが必要だと感じた。いや、単なる温もりではない。彼女が愛しい存在となった。 《待てよ。これでは真美の思い通りだ。冷静に、冷静にならねば・・》 「いいのよ。冷静にならなくても、私が必要なんでしょう」 部屋から戻った真美が、微笑み... 続きをみる
-
「防寒具だなんて、可笑しな表現だね。確かに温かいよ」 「でしょう~。気にいったかしら」 ますます密着する。 「勿論さ。最高級の防寒具だ! アッハハ・・」 「うふふ・・」 「ところで、明恵母さんの秘めた過去だけど・・」 室内に流れていた和やかな空気が、一瞬に滞り真美の顔が沈む。俺の左手は、彼女の... 続きをみる
-
半時後、別れを告げ箕郷に向かった。 運転する真美が、前方に注意を払いながら、意外なことを俺に告げる。 「ねえ、洸輝。実は・・、お母さんの心が、読めてしまったの。お母さんの心、とても悲しく辛い過去を持っている・・わ」 俺は信じられず、真美の横顔を見詰めた。彼女の頬に涙が零れ落ちる。俺は咄嗟に右... 続きをみる
-
「でもね、お母さん! 不思議なことに、これは急に感じたの。それも、洸輝だけよ」 真美は俺の顔を見ながら、明恵母さんに打ち明ける。 「あら、そうなの・・。私も初めて主人に会ったとき、主人の心が読めたわ」 「えっ、嘘だろう? 本当かい?」 オヤジさんが、素っ頓狂な声を上げた。 「うふふ・・、本当よ... 続きをみる
-
「ご免なさいね。早く引き取るべきだった。随分、迷ったの。あなたのお母さんが、迎えに来ると思って・・。あなたが小学生になってから、密かに通い続けたわ」 「ええ、誰だか分からないけど、俺を見ている人がいると感じていた。ある時、仲間のヤッちゃんが、その人に声を掛けたら逃げちゃったらしい」 《俺は母親と思... 続きをみる