ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2018年7月のブログ記事

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅴ

     その声は、雑音に抗い必死に呼びかける。 「助けて~、私を、ザザー、ガガッ・・助けて、ザザーッ、お願い」  私は声を振り絞って、応えた。 「分かった。ただ、内容を詳しく説明してくれ」 「うん、ガガッ、ガガ~、でも、後で・・」  消えてしまった。 「若月、この車を買った販売店は、どこだ?」 「あ~、... 続きをみる

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  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅳ

    「おい、待てよ。その高架橋へ行ってみよう」 「えっ、反対方向ですよ」 「構わん、そこへ案内してくれ」  若月は、渋々従う。一旦、首都高速を降りる。迂回してから再び首都高速を走った。 「そういえば、引っ越したんだっけ・・」 「でも、近い内に、主任の家の方へ越そうと考えています」 「どうして?」 「い... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅲ

     しばらく何も起きなかった私は、がぜん興味が湧く。昼食が終わり、社に戻る。 「若月、帰りに家まで送ってくれるか?」 「いいですよ。帰りに呼んでください」  実際の状況を、私は確かめたいと思った。仕事が捗り、定刻で退社する。若月も支度して、私を待っていた。  ビルを出ると、雨は止んでいなかった。仕方... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅱ 

     私は仕事しながらも、若月のことが気になる。  昼前に、若月がやって来た。 「ちょっと、待っていろよ。直ぐ終わるから・・」 「あっ、ハイ」  一旦、仕事を切り上げ、廊下で待つ若月に声を掛けた。 「さて、昼飯に行くか? 今日は少し肌寒いから、ちゃんぽんでも食べよう・・」  傘を差し、近くの店へ行く。... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅰ 

     最近は温暖化の所為か、極暑が続く。今年は、梅雨時期が極めて少なかった。長雨は嫌だが、情感を味わう淑やかに降る小雨、身勝手ながら恋しく思う。  そんな私の想いを応えるかのように、朝から雨が降り始めた。現実に降ると、気分が優れない。特に出勤時は、足元まで濡れて仕事に差し障る。出社すると靴を脱ぎ、用意... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅨⅩ 

     紅茶を飲み、俺はショートケーキ、彼女はチーズケーキを食べた。 「それで、これからどうするの?」  千恵が不安そうに聞く。 「うん、俺は兄貴に結婚のことを伝えた。だから、弥彦のお祖母さんに会って、報告したい。どうかな?」 「ええ、もちろんよ。早く行きたい」  ただ、向こうでの生活に不安が残る。先に... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅨ 

    「金ちゃん、何言ってんの?」  言葉の心意が理解できず、千恵の瞳が定まらない。 「然したることじゃない。綺麗になったね、と言う意味だよ」 「まあ、驚いた。もっとストレートに話してよ」  頬を膨らませ拗ねる。 「その顔も、素敵だ」  千恵が自分の顔を両手で隠した。 「もう、私の顔を見せない・・」 「... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅧ 

     あの日から、二年が過ぎ去った。俺は研修期間が終了し、ブラジルの企業に面接。三ヶ月後の昨日、合格通知の手紙が届く。その場で、千恵に電話した。 「あっ、金ちゃん・・。どうしたの?」 「明日の午後に、会えるかな?」  しばらく、沈黙が続く。俺は不安になった。 「うん、いいよ。本当に、会えるんだね・・」... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅦ 

     彼女の感情は、激しく変化する。言葉を選ばなくてはと思った。ただ、恣意なことは避けたい。 「う~ん、上辺だけの女性らしさでなく。なんと言えばいいのかな。麗しい? 簡単に言えば、仕草や姿が大人の女性として、たおやかな色っぽさかな?」  千恵は、直ぐに解釈したようだ。あっ、やっぱり。あの目つきは、小悪... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅥ 

    「うん、そうしよう。じゃ、しばらくは、お別れだ」 「えっ、本当に会えないの?」  ベンチから立ち上がり、俺を見下ろす。俺は座ったまま、見上げて頷く。 「どれほど、苦しめるつもりなの? これ以上苦しめるなら、私、死んじゃうから」  仕方なく、俺は立ち上がる。そして、抱きしめた。 「千恵ちゃん、永遠に... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅤ 

    「あいや~、間違えた。性欲じゃなく、快楽だった。だから、そんな気持で、恋を始めたら大変だ」  俺は支離滅裂な状況に陥った。千恵は面白そうに聞いている。 「だから、なんなの? うっふ・・、金ちゃんを困らせるって、楽しい。ふふ・・」 「うー、参った」  あの時の、千恵の姿を思い出してしまった。頭に焼き... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅣ 

     俺は迷ったが、ストレートに喋る。 「千恵ちゃんも大人だ。だから、率直に言うね。佐藤さんの体当たりって、本当に体を投げ出すことじゃないよ」  千恵は感じたらしく、ポッと顔を赤らめた。 「君は・・、俺を信じて、自分をさらけ出した。辛い勇気だったろうね」 「・・・」  彼女はたじろぐことなく、身を縮め... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅢ 

     千恵と恋をするなら、きちんとスタート・ラインを発とう。彼女を悲しませてはいけない。俺はそう考えた。 「千恵ちゃん・・。さっきさぁ・・、約束のこと、俺は言ったよね」 「うん、でも・・。内容を言ってないよ」  恐らく、困惑するだろう。もしかしたら、嘆き、泣きわめくかも。 「しばらく、会わない。それが... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅡ 

     もう、隠す必要はないと判断し、千恵にあの人のことを話す。 「その人は、素敵な人?」 「うん、素敵な人だった」  千恵の瞳が揺らいでいる。懸命に想像しているようだ。 「私と比べたら・・」 「比べることじゃないよ。人それぞれに個性がある。素敵の意味も異なるからね」 「ふ~ん。でも、金ちゃんが素敵に思... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅠ 

    「まだ、学校が終わっていない。それに研修もあり、どこへ行けるか分からないんだ」  千恵は視線を外すことなく、俺の言葉を聞いている。 「だから、結婚なんて考えられない。千恵ちゃんも若いしね・・」 「9月で、19になるわ。待っていたら、おばさんになっちゃう」 「あはは・・、佐藤さんに聞かれたら、叱られ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩ 

     俺は驚き、目を見張る。 「そうなの。お祖母ちゃんから、いろんな国の話を聞かされたわ。だから、小さい頃からの夢だった」 「お祖母ちゃんが、何故?」  千恵の説明によると、祖母も外国の生活に憧れていたという。実際に、祖父と一緒にヨーロッパや北中米へ観光旅行した。 「だから、外国に住めたらいいねって、... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅨ 

    「千恵ちゃん、俺は正直に話すから、良く考えてね」  彼女の体が不安で固まる。 「そんなに、緊張する必要はないよ」  肩を軽く摩る。 「うん、分かった・・」 「人を好きになること、決して悪いことじゃない。俺はたくさんの人を好きになった。残念だけど、嫌う人もいたし、嫌われもした」  何を説明しようと、... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅧ 

     翌々日の夕食後、千恵から連絡が来た。 「金ちゃん、元気!」  すごく元気な声が、携帯から響く。 「ああ、元気だよ。もう少し、声を低く・・」  幸いに、談話室には誰もいなかった。ただ、誰かに聞こえたら、大変だ。 「分かった・・。それからね、もう仕事しているからね」 「そうか、良かった。それで、今日... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅦ 

     佐藤が意味ありげに微笑んだ。 「何が面白い? 俺にとって、深刻なことだよ」 「あ、ごめん。面白いとは、思っていないわ。ただ、・・」 「ただ、って・・、なんだよ?」  不愉快になり、つっけんどんな言い方をした。 「ただ、千恵ちゃんを軽々しく考えていないと、分かったから。安心して、つい微笑んでしまっ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅥ 

     俺の考え方は一方的なのかもしれない。この先、どんな障壁が待ち構えているか、想像もつかない。でもな、一番の問題は恋愛だろう。 「ねえ、金ちゃん。あの子の行動を、どう思ったの?」 「うん、積極的だった。本音で言えば、体で誘うことが恋愛と思っているように感じた」  これが現代風の恋愛なのであろう。いじ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅤ 

     彼女なら理解すると思い、洗いざらい話すことにした。 「佐藤さん・・、今回のこと全て話すよ。ハッキリ言って、悩んでいるんだ」 「ええ、千恵ちゃんからも告白されたわ。あなたに抱かれ、キッスもしたそうね」  やはりな、あの子らしい。 「そのことで、どう思った?」 「う~ん、いろいろ考え、妬みも感じたわ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅣ 

     それからの数日は、何故か苛立ち落ち着かない。千恵から音沙汰が無く、俺の脳は完全に支配された。残暑と千恵の思いが、俺を焼き焦がす。  ほぼ一週間後、佐藤から呼び出される。 「今晩は、まだ暑いわね。元気だった?」 「うん、まあね。ところで、今日はなんの話かな?」  昼間より幾分暑さが和らぐも、未だに... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅢ 

     弥彦の内容が分かっていれば、同じ新幹線に乗って行けたのに。どこかで、歯車が狂った。工場へ連れて行かない方法を、考えるべきだった。 「金ちゃん、いつまで寝ているんだ」  同室の佐川に起こされる。昨晩は心身共に疲れ、いつの間にか熟睡したようだ。夢の中に千恵が映し出される。だが、肝心なところで途切れた... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅡ 

     俺は理解に苦しむ。 「金ちゃんらしい、言い回しね。うふふ・・」 「家に帰ったら、突然に電話だよ。意味が分からず、駅まで迎えに入ったけど・・」  佐藤の説明によると、数日前に千恵から相談を受ける。祖母からお盆に帰るよう勧められ、帰りたくないと悩んでいた。 「千恵ちゃん・・。お祖母ちゃんのことは、と... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅠ 

     彼女は、鷹揚に構え、唇を差し出す。 「ムードの無いキッスなんて、なんか変だよ」 「これで、いいの。外国なら、日常茶飯事でしょう」 「あ~、それは挨拶のキッスだ。ハグと同じさ・・。ムム・・」  千恵の唇が、強引に俺の口を塞いだ。俺の脳が、簡単に受け入れる。既に挨拶のキッスではなく、恋のキッスに変わ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩ 

     俺は答えることができない。口をパクパクと動かし、肺に酸素を送り込む。過呼吸に陥りそうだ。俺は天を仰ぐ。 「金ちゃん、大丈夫なの?」  千恵が俺の顔を覗き、小さな手で頬を擦る。なんて、優しく滑らかな手の感触、俺の脳が宙を回る。 「これが・・、天国へ誘う・・、天使の手・・、なのか?」  我知らず、余... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅨ 

     電車の単純な揺れに、疲れが眠気を誘う。千恵から健やかな寝息が聞こえる。俺も疲れていたが、この二日間を思い浮かべ脳がフル回転。千恵の予想外の振る舞いに、翻弄され続けた。思わせぶりの仕草に、心をときめかせ困惑する。俺は大きな溜め息を吐いた。 「ん、どうしたの?」  俺の動作を感じた彼女が、目を覚まし... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅥⅩⅧ 

     こんな可愛い天使のような小悪魔に呆れる。どう対処すれば良いのか、俺は考え倦む。 「なによ、固まって。本当は嬉しいくせに、素直じゃないんだから・・」  唇を離し、恨めしく言った。 「ああ、嬉しいさ。でもね、素直になれないよ、小悪魔ちゃん!」 「えっ、なんで小悪魔なの?」  思わぬ言葉に、千恵が驚く... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅦ 

     彷徨う俺の脳は、ハムレットの心境だ。恋か夢か、どちらを選ぶ。千恵に会うまでは、夢を現実に選んでいただろう。だが、彼女が目の前に現れ、俺の現実を夢から恋に浸食させよう試みている。 「千恵ちゃん、俺の脳が惑乱してる。困ったね」  俺の瞳を縛り付けたまま、鼻先をピンピンと弾き笑顔を見せた。 「と、言う... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅥ 

     気まずい思いで帰りの支度をする。千恵は無言のまま、事務所の椅子に座っていた。 時間を確認すると、夕刻の六時を過ぎていた。 「準備は、できたかな?」 「・・・」  相変わらず、俯いて反応しない。俺は千恵の前にしゃがみ、下から覗いた。 「いい加減に、許してくれよ。もう、あんなことは絶対にやらないから... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅤ 

     高崎に戻り、車を返した。俺はシャワーを浴びて着替える。 「千恵ちゃんもシャワーを浴びなよ。俺は事務所にいるからね」 「うん、分かった・・」  千恵は不満のようだけど、仕方なく浴びる。待つこと半時ほどで、千恵が事務所に現れた。ミニのノー・スリーブのワンピース姿だ。浅黄色の服装に、同色の清楚なネック... 続きをみる