ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2018年5月のブログ記事

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅣ 

     バスの工具箱からスパナを出し、ひもで結びつける。 「どうだ、これで十分にギアを動かせる」  仕方なく、寮へ戻ることにした。当直の先生に頼み、実習室を開けてもらう。 「溶接は誰が一番上手いんだ?」  海田が聞く。坂本が手を上げた。 「まかしといて、めちゃ上手く仕上げるさかい・・」  確かに、坂本の... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅢ 

    「ところで、三浦半島の件だけど?」 「うん、何が?」 「経費とか、詳しいことが知りたい」  大山の説明では、費用は寮の参加者が負担する。相手の女の子たちは、食事代だけだ。バス内の席も抽選で決めるという。 「バスは、どこから借りるのさ?」 「ああ、レンタカーだよ」 「運転は・・」 「寮長の海田さんが... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅡ 

     計画は誰かの意見で決めた訳でなく、食堂でなんとなく喋った話が現実化した。大山と木村が実行委員らしい。 「大山さん、三浦半島の件だけど、俺は知らないよ」 「あれ、部屋の机の上に、メモを置いたけどなぁ」  探したけど、結局見つからなかった。でも、食堂の掲示板で確認する。  その後、佐藤さんとは夕食後... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅠ 

     仕方なく、本当のことを打ち明ける。 「実は、あの人とは・・」 「ううん、言わなくてもいいわ」  出鼻をくじかれる。俺は唖然とした。 「えっ、どうしてさ?」 「当たり前でしょう。金ちゃんの好きな人が、誰だって言いの。私には関係ないもの」  確かにそうだ。俺だって、人の恋話なんて聞きたくない。 「そ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩ 

     情けない自分を恨めしく思う。心の奥に封印できない弱さを嘆く。ベッドから起き上がり、洗面室で顔をゴシゴシと洗った。幾分気が晴れ、再び食堂へ顔を出す。 「金ちゃん、ちょうどいいところに来た。ちょっと変わってくれ」  木村の代わりに、俺が麻雀することになった。別に嫌いじゃなかったので、卓に座る。 「大... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅨ 

    「今更だけど、直接に言ってもらいたかった。自分の口で答えるつもりだったのに・・」 「・・・」 「私は、両親が反対しても、あなたと結婚する覚悟だった」 「そんな・・」 「ええ、本当よ。でも、もういいの」  あの人は悲しい目で俺を見る。俺の心は、挫けそうだ。 「そうか・・、ごめん」  俺は、ただ謝るし... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅧ 

    「君と結婚して、幸せな人生を共に過ごしたいと願った。それは誰でも求めることだし、初めから離婚なんて考える人はいない。そうだろう?」 「ええ、思うわ」 「それと同じに、生きる意味を考えた。産まれ、死ぬ、これは全ての人に当てはまる。だから、生きているうちに何をやりたいか。それが夢だと思う」 「・・・」... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅦ 

     確かに、俺は答えられない。自分の理不尽な振る舞いに、呆れる。 「夢を求めていた時期もあった。でも、君に出会い、夢を諦め君を選んだ」 「・・・」 「今でも、君を諦めたくない。ただ、入院中に考えが変わった」 「どうして?」  長谷川さんの顔と手紙を思い出す。 「一言で言い表せない。でも、幸せの価値観... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅥ 

     あの人の了解を得ず、ご両親に結婚を申し出たのである。言うまでもない、後日、体良く断わられた。俺は後悔していなかった。 「どうして、先に言えなかったの?」  あの人の視線は、怒りと悲しみ、それに憎しみと憐みが複雑に絡み合っている。 「ごめん、君との結婚は絶望的に思えた。君に言えば、君から否定の言葉... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅤ 

     浅黄色の封筒から、丁寧に畳まれた便箋を取り出す。  俺はドキドキしながら広げた。優しい文字が、踊るように書かれている。 『ほんの僅かな間だったけど、あなたに会えて良かったわ。弟のような、彼氏のような。どちらでも構わない。身近に話せた男性は、あなたが最初で最期の人。ありがとう。  やりたいことが沢... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅣ 

     「彼女、あまり具合が良くないの。強い痛み止めの注射で、会話は無理かもしれない。でも、金本さんに会いたがっているわ。先生には内緒よ」  長谷川さんの病室のドアに、面会制限の札が掛けられている。看護師に促され、俺は静かに病室の中に入った。 「・・・」  しばらくの間、黙って長谷川さんの顔を見詰める。... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅢ 

     俺は何を話すか、前もって考えていた。彼女の名前は長谷川。 「長谷川さんが好きなのは、旅行の話だよね」 「ええ、この状況では、どこへも行けないもの」 「じゃ、どこへ行きたい? 国内、外国のどっちがいいかな?」 「ん~、外国かな?」  やはり、思った通りだ。俺は南米の様子を話すことにした。ただ、俺も... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩⅡ 

     あの頃、俺は悩んでいた。  あの人か、夢か、どちらかを選択する必要があった。  中学の時、意識の中に外国生活への憧れが、突如湧き上がった。ただ、自分でも理由が分からない。  意識は、憧れから夢に変わる。その後、ずっと夢を追い求めてきた。  ひょんなことから、あの人に出会う。  それまでは、安易な... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅡⅩⅠ 

     公園内のテラスのあるレストラン。木陰のテーブル席に座る。飲み物を注文するが、しばらく会話がない。互いに記憶を模索する感じだ。 「それで、今は何している?」  仕方なく、俺が先に口を開いた。 「ええ、特に変わったことは、ないわ」  遠くの景色に視線を置き、虚ろに答えた。あの人の視線の先を、俺も見る... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅡⅩ 

     日曜日の朝、佐藤さんが突然に訪ねて来た。俺は急いで玄関に行く。白い日傘をさした佐藤さんが、門の前に立っていた。 「おはよう、金ちゃん・・」 「やあ、おはよう。どうしたの?」 「突然に、ごめんね。今日、時間が有るかしら?」 「いや、約束が有って、これから東京に出掛けるんだ」  佐藤は、俺の返事に肩... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅨ 

     その後、寮生活にも慣れ、平凡な日々が過ぎて行く。  七月の日曜日に、寮生のひとり山倉が結婚した。相手の実家がある田園調布の教会で、結婚式を挙げる。俺たち全員が参列。教会の結婚式は、初めての経験だった。  その夜、俺は夢を見た。教会で結婚式を挙げる俺がいる。聖壇の前に立ち、花嫁を待っていた。オルガ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅧ  

     そこへ、坂本が疲れた顔で帰って来た。 「坂本さん、お帰り・・」 「あれ、はよ戻ったかいな?」 「ええ、適当にぶらついて、帰ってきました」 「なんや、なにもせ~へんでか?」  坂本は呆れた顔をした。 「当たり前でしょう。ほな、坂本さんは、どないやねん?」 「アハハ・・、けったいな、大阪弁やな。金ち... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅦ 

     自分では長く潜るつもりだったが、直ぐに息を切らして顔を出した。 「何やってんだ、金ちゃんは・・」  川島が立っていた。 「いやぁ~、川島さん。気持ちを吹っ切るために、潜ったけど・・」 「何を、吹っ切るつもりなんだ?」  川島が湯船の中に入って来た。彼は、俺と同じ群馬県出身。 「いや、そんなに深刻... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅥ 

     西日が傾き、辺りが薄暗くなってきた。 「もう、帰りましょうよ」 「うん、帰ろうか・・」  公園を離れ、地下鉄で新宿に出る。新宿駅は人の群れでごった返し、歩くのに苦労する。車内に並んで座れた。あまり話すことも無く、秦野駅に着いた。  駅から寮までぶらりと歩く。ほどよい距離だ。 「疲れたね。仕事に、... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅤ 

     彼女の願いは叶えたい。本能的に望んでいる。でも、恋を前提とするキスではない。 「うん、いいよ」  俺の心を騙している返事だった。 「・・・」  佐藤は体を寄せ、唇を近づけた。瞼をしっかり閉じている。 「・・・」  左手で彼女の肩を抱いた。唇を重ねる。俺の意識は、周りの景色も風も断ち切った。同伴喫... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅣ

     いや、初めてではない。前にひとりだけ連れて来た女の子がいる。でも、それは特別な感情を抱くことは無かった。むしろ、俺の憧れである妹的存在かもしれない。 「ひとつ、聞いてもいいかしら?」 「うっ、何を?」 「もし、もしよ。ん~、あのね」  佐藤は、言葉を探している。 「いいから、何でも聞いていいよ」... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅢ

     階段を下り、一階の普通席を見た。奥の席に目が流れる。楽しい時間を過ごしたはずの場所。 「どうしたの、金ちゃん?」  佐藤の声に、あの時間が幻のように消え去った。 「いいや、なんでもない・・」  外へ出ると、日差しが眩しく照らす。 「これから、どこへ行くの?」 「うん、例の議事堂前公園に行くよ」 ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅡ 

     佐藤のショート・カットの髪を触る。 「佐藤さんの髪って、サラサラしているね」 「あ~、何よ。この感覚・・」  佐藤は気持ち良さそうに、頭を反らす。俺は触り続けた。 「もう、ダメ・・」  上気した顔に潤んだ瞳の彼女が、俺の顔を見詰める。俺は知らぬ顔で、アイス・コーヒーを飲んだ。 「もう、金ちゃんっ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅩⅠ 

     レストランを出る。ぶらりと散策した。 「金ちゃん、あの洋風のお城は、何?」 「あ~、あれか。喫茶店だよ」  二年前に、入ったことがある。 「私、入ってみたい。行こうよ・・」  俺は迷った。 「行こうよ、ね?」  腕を掴まれ、仕方なく歩く。目の前に着いた。 「さあ、さあ、入ろう・・」  ほとんど、... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅹ 

     駅構内を歩き回った後、新宿駅西口に出る。あてもなく歩く。 「金ちゃん、どこかでお昼を食べようよ」 「そうだね。何が食べたい?」  前に、花園近くのピット・インにジャズを聴きに来たことがあった。その辺を歩き、適当な洋食レストランに入る。 「俺は、ビーフシチュウにするよ。佐藤さんは、何する?」 「私... 続きをみる