偽りの恋 ⅥⅩⅧ
こんな可愛い天使のような小悪魔に呆れる。どう対処すれば良いのか、俺は考え倦む。
「なによ、固まって。本当は嬉しいくせに、素直じゃないんだから・・」
唇を離し、恨めしく言った。
「ああ、嬉しいさ。でもね、素直になれないよ、小悪魔ちゃん!」
「えっ、なんで小悪魔なの?」
思わぬ言葉に、千恵が驚く。その驚きの仕草が、天使に変貌し俺を魅了する
「いや、いや、麗しい天使だった」
「もう、呆れた。変よ、金ちゃんの頭。精神科の先生に、診てもらったら」
俺は反論せず、手荷物を用意した。そして、事務所の照明を消す。
「さあ、外に出て。鍵閉めるから・・」
千恵は無言で従う。外へ出る前に、俺の尻を思い切り叩いた。
「アッ、酷い仕打ち・・」
俺は事務所の鍵を掛けながら、仕返しを考える。後ろで、クスクスと笑いを堪えている千恵。
「ヨシッ、照明も鍵もオッケイだな」
彼女が前を歩き始める。俺は振り向きざまに、千恵の引き締まった尻を叩く。
「あ~、金ちゃん狡い! 卑怯者、金ちゃんのエッチ!」
俺を睨みつける。が、直ぐに笑い出した。
「こんな・・、男性にお尻を叩かれたの初めてよ。もう許せない」
「俺だって、麗しい小悪魔ちゃんに叩かれたの、初めてだよ。でも、俺は許す」
二人は駅まで歩く。千恵は、まだ笑っている。
「うふふ・・、やはり、ふふ・・。金ちゃんは、私の未来の夫ね。ふふ・・、運命なんだわ」
腕を絡ませてきた。俺は振り払うことも無く、歩き続ける。新幹線の東京行きは混雑していた。仕方なく、乗降口で立ったまま大宮駅まで行く。大宮から新宿まで埼京線に乗り換えた。
「千恵ちゃん、疲れたろう?」
「ううん、独りじゃないから、平気よ。金ちゃんが傍にいるもん」
新宿から小田急線に乗る。始発なので、二人は並び座れた。俺の肩に頭を乗せ、目を閉じる千恵。温もりが伝わる。