ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 Ⅰ 

 今、人は夢の中にいる。本当の現実社会を知らない。それで良いのかと悩む。いや、悩む必要はないのかも・・。夢こそ現実だからだ。人は夢を見ながら生きている。最後の時に、現実を知る。歩んだ人生を後悔するか納得させるか、自らに判断を委ねるためであろう。  人の生き方は、産まれた環境でほぼ決まる。だが、運命が多くの道を選択させ、環境を徐々に変えて行く。多くの選択こそ、夢である。どの道を、どのように選ぶか。…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅳ 

 翌週の日曜日、ミサの後に洗礼を受けた。洗礼名はマルシア。マルガリータ園長、佐和やマルコスなどが参列して、洗礼の儀式を見守る。神父が、亜紀の頭上に聖水を注ぐ。 《そう、この水が永遠の忘れ水ね》  亜紀の左手の薬指と首かざりの指輪が、一瞬の温もりを感じさせる。それは、輝明が彼女の洗礼を祝福したと亜紀は思えた。 《私は独りぼっちじゃぁ、ないわ》  洗礼後、参列者から祝福のハグを受ける。  礼拝堂を出…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅳ 

 三ヶ月後の五月、亜紀は独りで水沢山を訪れた。整備された小道を登る。頂上に立ち、一望の景色を眺めた。季節は異なるが、眺める風景は変わっていなかった。彼女の長い髪の一本一本を、爽やかな風が愛でるように触れて行く。  その風の感触は、輝明が優しく撫でる感覚に似ている。 「あ~、輝君・・」  亜紀は、彼の名前を呼んだ。 『ん? どうしたの?』 「だって、輝君が触ると、恋しくなるもの・・」 『亜紀さんの…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅲ 

 輝明の兄は、言葉を続けることができない。亜紀は嫌な予感に手が震え、支える何かを求める。心の奥から声を絞り出し、兄が伝えたい言葉を尋ねた。 「お兄さん、輝君・・に、何が・・、起きたのですか?」 「実は・・、弟が、亡くなり・・・ました」  兄の言葉に、亜紀は信じられなかった。 《うそ、うそでしょう。いや、間違いました。と言ってください!》  亜紀は立っていられない。ドスンとベッドに座り込んだ。携帯…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅱ

 太田インターから桐生に差し掛かる。高崎まで三十キロ程の地点だった。突然、右前方の車がスリップし、中央分離帯に追突した。その後ろに走行していたトラックが、急ブレーキを掛け輝明の車線側にハンドルを切った。その車は、輝明の前を走るワンボックス車に激突。 「わぁ~、危ない!」  彼は大声を張り上げ、ブレーキを思いっきり踏む。だが、輝明の車もスリップして止まらない。仕方なく右にハンドルを回してしまった。…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)

 成田空港の明かりが遠ざかる。雲間を通り過ぎると、満天の星が輝いていた。その星が涙で歪む。 「マルシア、悲しくて、泣いているの?」 「ううん、悲しい涙ではないの。涙には、沢山の意味があるのよ」  マルコスが、ポケットからティシュを取り出し亜紀に渡した。 「ありがとう・・。これでいいのかと思うと、何故か虚しくなったの」  客室乗務員が、夕食を配り始めた。滞在中に経験したことを、マルコスは限りなく話…

   恵沢の絆   ⅩⅢ 完 

 ホテルの部屋から、兄の家へ電話した。 「はい、金井ですが?」 「あ、お義姉さん? 輝久です。高崎に着きました」 「ああ、お疲れ様。長旅で疲れたでしょうね。今は、どこに?」 「駅前のホテルです。しばらくしたら、病院へ行きます。貴志君に伝えてください」 「まあ、そうなの・・。今まで病院にいたのに・・。でも、どうにか間に合ったようね。良かったわ。輝ちゃん、ありがとう・・」  私は、そっと受話器を置い…

   恵沢の絆   ⅩⅡ 

 そこにいたのは姉の子、十三歳の順子と十一歳の龍男であった。姉が私を抱きしめたように、私がふたりを抱きしめる。 「姉ちゃん・・。幼いふたりを残し、辛かっただろうね」  ふたりの温もりは姉の温もりであり、無念な姉の気持ちが私に伝わった。おそらく、父も姉の死後四ヵ月は、幼い孫ふたりに慈悲の心で見守っていたのであろう。  ただ、父の気力は体の衰えに屈してしまった。あの『坊ちゃん父ちゃん』と言われた父の…

   恵沢の絆   ⅩⅠ 

「オヤジさんには、早く伝えるように言ったけど・・。お前の気持ちを考えると、知らせる勇気が無かったようだ」 「どうして?」 「病院の説明では、心不全と言われた。亡くなる二日前、お見舞いに行ったが元気な様子だった」 「そうか・・、本当に残念だ。それにしても、オヤジさんは辛かっただろうね」  私は気丈に答えるが、心の感情は滅茶苦茶に暴れ回っている。 「ああ、元気がないよ。心配だ」  受話器を置く。無表…

   恵沢の絆   Ⅹ

 数年後、日系三世の女性と結婚し、三人の子の父親になる。  残念なことに、私が望んだスカウトの開拓農場は既に閉鎖されていた。先輩たちは、其々に活躍できる日系社会の職場で働いている。私は、数人の先輩と日系子弟のボーイ・スカウト隊を結成。私が初代の隊長となった。  大自然を活用するブラジルのキャンプは、特に厳しい規制はない。日本ではとても考えられない環境であった。もちろん、危険が伴う毒蜘蛛(タランチ…