ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

 微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅲ

 しばらく何も起きなかった私は、がぜん興味が湧く。昼食が終わり、社に戻る。 「若月、帰りに家まで送ってくれるか?」 「いいですよ。帰りに呼んでください」  実際の状況を、私は確かめたいと思った。仕事が捗り、定刻で退社する。若月も支度して、私を待っていた。  ビルを出ると、雨は止んでいなかった。仕方なく駐車場まで走る。彼の車は、駐車専用ビルの五階に停めてあった。 「なんだ、車を替えたのか?」 「は…

 微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅱ 

 私は仕事しながらも、若月のことが気になる。  昼前に、若月がやって来た。 「ちょっと、待っていろよ。直ぐ終わるから・・」 「あっ、ハイ」  一旦、仕事を切り上げ、廊下で待つ若月に声を掛けた。 「さて、昼飯に行くか? 今日は少し肌寒いから、ちゃんぽんでも食べよう・・」  傘を差し、近くの店へ行く。幸いに混雑しておらず、待つことなく座れた。 「それで、どんな声だった?」 「ええ、子供の声でした」 …

 微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅰ 

 最近は温暖化の所為か、極暑が続く。今年は、梅雨時期が極めて少なかった。長雨は嫌だが、情感を味わう淑やかに降る小雨、身勝手ながら恋しく思う。  そんな私の想いを応えるかのように、朝から雨が降り始めた。現実に降ると、気分が優れない。特に出勤時は、足元まで濡れて仕事に差し障る。出社すると靴を脱ぎ、用意した靴下に履き替えた。 「大河内主任、おはようございます」  相変わらず、元気な声で挨拶する若月。 …

   偽りの恋 ⅨⅩ 

 紅茶を飲み、俺はショートケーキ、彼女はチーズケーキを食べた。 「それで、これからどうするの?」  千恵が不安そうに聞く。 「うん、俺は兄貴に結婚のことを伝えた。だから、弥彦のお祖母さんに会って、報告したい。どうかな?」 「ええ、もちろんよ。早く行きたい」  ただ、向こうでの生活に不安が残る。先に俺だけ行き、後から彼女を呼び寄せるつもりだ。恐らく、嫌がり一緒に行くと言い張るだろう。 「金ちゃん、…

   偽りの恋 ⅧⅩⅨ 

「金ちゃん、何言ってんの?」  言葉の心意が理解できず、千恵の瞳が定まらない。 「然したることじゃない。綺麗になったね、と言う意味だよ」 「まあ、驚いた。もっとストレートに話してよ」  頬を膨らませ拗ねる。 「その顔も、素敵だ」  千恵が自分の顔を両手で隠した。 「もう、私の顔を見せない・・」 「いいよ、見せなくても。もう、十分に見たから・・。アッハハ・・」  二人は笑った。俺は笑いながら、噴水…

   偽りの恋 ⅧⅩⅧ 

 あの日から、二年が過ぎ去った。俺は研修期間が終了し、ブラジルの企業に面接。三ヶ月後の昨日、合格通知の手紙が届く。その場で、千恵に電話した。 「あっ、金ちゃん・・。どうしたの?」 「明日の午後に、会えるかな?」  しばらく、沈黙が続く。俺は不安になった。 「うん、いいよ。本当に、会えるんだね・・」  か細い声が聞こえてきた。 「そうだよ、待たせて悪かったね。ようやく、夢が叶った」 「ううん、悪く…

   偽りの恋 ⅧⅩⅦ 

 彼女の感情は、激しく変化する。言葉を選ばなくてはと思った。ただ、恣意なことは避けたい。 「う~ん、上辺だけの女性らしさでなく。なんと言えばいいのかな。麗しい? 簡単に言えば、仕草や姿が大人の女性として、たおやかな色っぽさかな?」  千恵は、直ぐに解釈したようだ。あっ、やっぱり。あの目つきは、小悪魔の目だ。勘違いしている。 「な~んだ。そうか、金ちゃんが喜ぶ体形になり、もっと女っぽくなればいいの…

   偽りの恋 ⅧⅩⅥ 

「うん、そうしよう。じゃ、しばらくは、お別れだ」 「えっ、本当に会えないの?」  ベンチから立ち上がり、俺を見下ろす。俺は座ったまま、見上げて頷く。 「どれほど、苦しめるつもりなの? これ以上苦しめるなら、私、死んじゃうから」  仕方なく、俺は立ち上がる。そして、抱きしめた。 「千恵ちゃん、永遠に別れることじゃないよ。しばらくの間だ・・」 「しばらくって、一週間、二週間?」 「いや、もっとかな」…

   偽りの恋 ⅧⅩⅤ 

「あいや~、間違えた。性欲じゃなく、快楽だった。だから、そんな気持で、恋を始めたら大変だ」  俺は支離滅裂な状況に陥った。千恵は面白そうに聞いている。 「だから、なんなの? うっふ・・、金ちゃんを困らせるって、楽しい。ふふ・・」 「うー、参った」  あの時の、千恵の姿を思い出してしまった。頭に焼き付いたイメージを、懸命に拭い去る。あ~、汗だくだ。 「金ちゃん、安心してよ。確かに、あの時は無我夢中…

   偽りの恋 ⅧⅩⅣ 

 俺は迷ったが、ストレートに喋る。 「千恵ちゃんも大人だ。だから、率直に言うね。佐藤さんの体当たりって、本当に体を投げ出すことじゃないよ」  千恵は感じたらしく、ポッと顔を赤らめた。 「君は・・、俺を信じて、自分をさらけ出した。辛い勇気だったろうね」 「・・・」  彼女はたじろぐことなく、身を縮め黙って聞く。 「俺だって、辛かった。少なからず、君に好意を持っていたから、悪い気分じゃなかったよ。で…