谷川の名水冷やしラーメンを注文。二人は一時休戦状態。俺はゆっくり味わった。ガラス越しに望める谷川岳の緑に囲まれ、気分が穏やかになる。先に食べ終わった俺は、何気なく千恵の食べる様子を見ていた。 「ねえ、・・・」 千恵の足が、俺の脛を小突く。 「ん? 何が言いたい?」 警戒することなく、ぼんやりと尋ねる。 「本当に、ダメなの?」 割り箸に麺を絡ませ、おずおずと問い返す。 「だから、何がダメな…
千恵の手を握り、車に引き返す。車を戻すため、夕刻までに帰る必要があった。北陸道から長岡JCTで関越高速に入る。関越トンネルを越えた最初のパーキング・エリアで昼食にした。 「さあ、昼でも食べよう。早く降りて・・」 あれから、ずーっと千恵は言葉を交わさない。俺は運転しながら、千恵のことを考えていた。仕方なく、助手席側のドアを開け、千恵の腕を掴んだ。 「嫌よ、降りないわ」 「あ~、やっと人間の言葉…
千恵の瞳が眩しい。涙にキラリと光る。 「あぁ、・・・」 答える言葉が見つからず、俺の意識が脳内を彷徨う。 「金ちゃん、嫌なの?」 間近に迫るピンクの蕾。すーっと俺の唇に触れた。俺の意識は彷徨うのを忘れ、煩悩の誘いに頷いてしまった。 俺の左手が千恵を引き寄せ、しっかりと抱きしめてしまった。 「あ~、好き・・」 千恵の甘く切ない声が、俺の口の中で騒ぐ。俺の右手が不自然に動いた。彼女の体が瞬…
新潟弥彦の旅は、千恵のことを思い恋人らしく振る舞う。祖母の家や弥彦神社参拝は、楽しい思い出となった。 「あの子は不憫な孫なんよ、だから頼みますね」 千恵の祖母が、彼女の生い立ちを打ち明ける。幼き時期に母が病死、父が再婚すると疎まれる存在となった。母の実家に預けられ、高校卒業と同時に神奈川へ就職する。 「あ~、はい。こちらこそ・・」 咄嗟のことで、俺は曖昧に答えてしまった。 「うふふ・・、こ…
どうにか出発できた。早く高崎から離れることが、最善だと思う。関越高速に入ると、疎らな交通量に緊張が緩む。 「ねぇ、金ちゃん・・」 「うん、なんだい?」 「まだ答えていないよ」 俺は忘れていたことを思い出す。体が強張り、ハンドルを握る手に力が入った。 「あ~ぁ、そうか。忘れていた」 前方に目を配り、思案する。恋愛関係になった女性は、幾人かいるが寝たことは無い。 それに、結婚まで考えたあの人と…
千恵が首に腕を回し、激しく体を寄せる。決壊した二人の煩悩は、危険な状態になった。俺の手が、彼女の体を弄ぶ。千恵が切ない声を出した。 その時、事務所の電話が大きく鳴った。その音に、俺の体が敏感に危険を察し、千恵の体を引き離す。 「千恵ちゃん、ごめん・・」 「あ~、なんで? こんな時に、電話が・・」 興奮を抑え切れず、恨みがましげに俺の顔を見る。俺の心は疾しさに、安堵した。 「電話に出ないと困…
小さな肩が小刻みに震えた。俺は抱き締め、彼女の背中を擦る。しっとりした肌に、俺の手は惑わされた。 「ねぇ、金ちゃん・・」 「ん、なんだい?」 「金ちゃんは、女性を抱いたことがあるのね?」 若く初心な肌に俺の手が停まる。 「・・・」 どう答えれば良いのか、俺の脳が窮する。 「な~ぜ~、黙って~いる~の?」 千恵は、言葉を震わせた。彼女の痛む心を感じ、俺は強く抱き締める。 「あ~ぁ、金ちゃん…
目の前に曝け出された愛らしい体。目が奪われる清楚な下着姿だった。 「あら~、どうしたの? 丸裸と思ったの、残念でした。うふふ・・」 言葉を失った俺に、千恵は嘲笑う。 ずり落ちたバスタオルを拾い、ハンガーに掛けた。ボディー・シャンプーの香りが、俺の鼻腔を刺激する。 「うふふ・・、アハハ・・」 複雑に絡み合う欲望と安堵が、俺を笑わせた。 「ん? 何が、そんなに面白いの?」 奇策を講じた彼女…
曇りガラスの戸が閉まる。衣擦れの音が、外で待つ俺の耳に聞こえてきた。俺は気まずさに、後ろへ振り向く。壁に寄りかかり、目を閉じ黙想する。 「金ちゃん! そこにいるの?」 「ああ、居るから心配しなくていいよ・・」 不意に、ガラス戸が開き、俺の心臓がドカンと撥ねる。見る必要の無い後ろを、顧みてしまった。柔肌の腕が差し出され、宙を舞う。 「タオルが無いわ。貸してちょうだい」 「わ、分かった。い、今、…
「そ、それ、それは困るよ。夢を求めると、俺は誓ったんだ」 「誰に誓ったの?」 「う~、誰にって、神様だよ」 意味難解な言葉に、千恵は呆れた顔で見る。 「そんな神様なんて、いないわ。本当に嘘が下手ね。ふふ・・」 俺も、自分の言い訳に呆れていた。 「うん、俺は下手くそだ」 「でしょう? 金ちゃんは優しすぎるのよ」 千恵がわざとらしく、足を組み替えた。その動作に俺の目が向く。 「い、いや俺は優し…