ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

  漂泊の慕情  Ⅰ

 暮秋の午後、高崎城址公園の古く色あせたベンチ。日溜まりの温もりを求め、心虚しく座る。目の前に噴水を止められた池。水面に視線を向け茫然と時を過ごす。
 足元の枯れ葉が風に煽られ、カサカサと忙しく転がる。使い慣れた薄茶色のバックからヘア・バンドを取り出し、長い髪をひとつに纏めた。
 思わぬ破局に心は戸惑い嘆くが、誰の慰めもいらない。サマリア人の一滴の涙さえ必要としない。強いて新たな恋を求めるべきか、それとも、頑なに独りで生きるべきか思案に暮れる。
「ごめん、もう会わない・・。でも・・」
 謝りの言葉を呟き、さよならも言わずに去った彼。あれから、もう二時間が過ぎた。彼は最後の言葉を濁した。何かを私に伝えようとしたが、なぜか押し黙ってしまった。今でも、その情況が心に残る。
 昼前に、街中の音楽喫茶(あすか)で待ち合わせた。予定の時刻になっても来ない。心配をしながら侘しく待ち続ける。二杯目のコーヒーも残りわずかだ。女性ひとりに周囲の目が触れるようになった。
 やむを得ない事情が起きたと思い、仕方なく私は席を立ちあがる。
「いや~ぁ、申し訳ない」
 明るい声で、彼が喫茶店内に入ってくる。しかし、声とは裏腹に、彼の眼差しは虚ろな心を反映させていた。ホッとしたはずの私の脳裏が、嫌な予感に反応する。
 彼はコーヒーを注文したが、そのまま一言も話さない。いつもの優しい眼差しを求め、彼の瞳を直視した。だが、彼の瞳は要求を拒む。
「どうしたの? どうして私の目を避けるのかしら、突然に私を嫌いになったの?」
「・・・」
 この意外な状況に埒が明かないと考え、執拗に尋ねてしまった。彼は神経質そうに、目の前のコーヒーや他の席に目をやる。私はグラスの水を口に含む。すっかり温く素っ気ない水に変わっていた。
 彼はコーヒーに砂糖を入れ、小さじで数回かき混ぜる。しかし、カップに一度も口を付けなかった。
 彼がチラッと私の顔を見る。その機会を逃さず、彼の目を捕らえた。ほんの一瞬に過ぎなかった。彼は不自然な様子で、その場から立ち去ろとする。
「何がいけないの? なぜ、何故なの?」
 私は必死になり、語調を荒げてしまった。周囲の人々が驚き、私たちを冷めた目つきで見る。
「ごめん、もう会わない・・。でも・・」
 顔を赤らめ、俯き加減で私に告げる。財布からお金を取り出し、テーブルの上に置いて店から出て行った。
 テーブルの上には、千円札が二枚残されている。
「何よ、何がごめんなの? 私には意味が解らない・・」
 後を追いかける気力も無く、そのままテーブルの席に座り続けた。彼が残したコーヒーを飲む。これほど苦いコーヒーを飲むのは、初めての経験であった。

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