「これから、国内線に乗り換えるのよ。洸輝、迷子にならないでね」 国内線のロビーから、国内線受付けに向かう。どこを見ても、外国人の顔ばかりだ。俺は恐怖を感じ始めた。 「どうした、洸輝君。先ほどから、キョロキョロと落ち着きが無いね」 「オヤジさん、ほとんど日本人らしき人が見当たりません」 「アハハ・・、いなくても、私たちがいるじゃないか。心配ないよ」 しかし、俺は日本人ばかりの生活に慣れていたか…
フワフワと体が揺れガクンと着陸するまで、俺は生きた心地がしなかった。無事に着陸すると、俺は神仏に感謝する。 「洸輝、体が強張っているわよ。大丈夫?」 「ああ、平気だ。なんでもないさ」 俺は、真美に弱みを見せないよう強がった。 「うっそ、本当は怖がっていたわ。ふふ・・」 《確かに、そうだ。初めてだから、仕方ないよ》 手荷物をまとめ、前から順に降りる。俺は真美の分まで運ぶ。 「これから、入国審…
機内の時間は、俺にとって随分長く感じられる。幾度も時計を確認。ただ、真美のお喋りが退屈を凌いでくれた。 早い夜が訪れ、軽い夜食後に機内の照明が落とされた。慣れない体のリズムが、目を覚ましたまま過ごす。真美と前のふたりは、静かに寝入っている。仕方なく、俺は耳にイヤホンをつけ、好きな音楽を選んで聴く。 突如、機内が明るくなり、俺は目を開けた。いつの間にか、眠っていたのだ。 「良く眠れたようね」…
出国審査を終え、真美と明恵母さんが免税店を覗き回る。俺は真美が行く所は、常に一緒だ。出発までは、かなりの余裕があった。 「明恵母さん、意外に時間が有るんですね」 「そうね、いつもそうよ。疲れるでしょう」 「はい、行くまでに疲れました」 俺たちのフライト便がアナウンスされた。 「さあ、ゲートに行こうか・・」 漸く、機内に入れた。狭い座席を想像していたら、意外にもビジネス席だった。 「あれ、エ…
成田国際空港出発ロビーに到着。俺は、ただ三人の後を従うだけだ。頭の中は真っ白で、何も考えが及ばない。ANA航空のカウンターでチケットの手続き。旅行ケースを預けると、出発時間まで空港内を散策。 オヤジさんが早めの昼食を提案し、階上のレストランへ行く。滑走路が見える窓際に座った。 《旅行の間は、レストランの食事ばかりだろうな。帰るまで、日本食はお預けだ》 俺は天ぷら定食を頼んだ。他の三人は、サ…
オヤジさんと俺が朝食をしてる間に、明恵母さんと真美が一緒に入浴。ふたりの笑い声が、浴室から響いてくる。俺とオヤジさんは、目を合わせ微笑む。 高崎駅までは、オヤジさんの商用車で行くことになった。 俺が旅行ケースを車に積み込んでいると、別人に見紛う真美が現れる。 《おっ! ワォ~、本当に真美なのか・・》 長めの髪をきゅっと後ろに引き詰め、ポニーテールに鮮やかなグリーンのバンドで束ねた真美。薄…
「でもさ、真美が完全な英語を話すの、俺はまだ聞いてないよ」 「フフ・・、もし、喋ったら分かるの?」 「いや、分かる訳ないから、喋らなくてもいい・・」 楽しい時間が過ぎて行く。 「あら、もうこんな時間に・・。明日は早く出掛けるのよ。早く寝ましょう」 「そうだね。年寄りは、自然に早く目が覚めるが、若いふたりは起きられない。バスに乗り遅れたら大変だ」 明恵母さんとオヤジさんが、心配した。その晩は、…
十日後、旅行の手続きが整った。出発の前日、家族全員で荷物の整理。あれだ、これだと大騒ぎ。俺は厳しい寒さに耐える衣服を準備する。 「まあ、驚いたわ。そんなに防寒具を持って行くの?」 明恵母さんが驚く。 「だって、この高崎よりもっと寒いって言うから、用意しておかないとね」 「大丈夫、少しオーバーに話しただけよ。だから、安心して・・洸輝。この時期は、とても紅葉が綺麗なの。お母さんも喜ぶと思うわ」 …
「ごめんね、大切な品物だったんだ」 それにしても、俺の持ち物は少ない。持っているものはガラクタばかりだった。 「そんなに、がっかりしないで・・。これからは、ふたりで揃えればいいのよ」 「でも、真美の家には、新しく買う物が無いよ。殆ど揃っているから・・」 《古くても趣のある家具だと思う。もったいない気がする》 「いいえ、この家の家具は古いわ。模様替えを考えているの」 「真美の家だから、好きなよう…
「う~ん、そうだね。仕事は暇だし、行くことにするかな」 嬉しそうに顔を綻ばせる明恵母さん。 「直ぐに旅行会社へ連絡して、日程を考えなければ。ねえ、真美・・」 「お母さんが一緒なのは、とても嬉しいけど・・。ちょっと残念な気がする」 真美が拗ねる真似をする。 「何が残念なのさぁ?」 意味が分からず、俺は彼女に聞いた。 「あれ、洸輝は分からないの? ふたりの熱い新婚旅行よ」 俺は気付き、一瞬に…