謂れ無き存在 ⅥⅩⅣ
フワフワと体が揺れガクンと着陸するまで、俺は生きた心地がしなかった。無事に着陸すると、俺は神仏に感謝する。
「洸輝、体が強張っているわよ。大丈夫?」
「ああ、平気だ。なんでもないさ」
俺は、真美に弱みを見せないよう強がった。
「うっそ、本当は怖がっていたわ。ふふ・・」
《確かに、そうだ。初めてだから、仕方ないよ》
手荷物をまとめ、前から順に降りる。俺は真美の分まで運ぶ。
「これから、入国審査よ。練習したでしょう。ほぼ、その通りに答えればいいのよ」
「うん、分かった」
入国審査は必ず一人で受けるので、事前に練習をさせられた。聞き取れない英語に、幾度も失敗した。その度に、真美から注意を受ける。
明恵母さんが列の最初にいた。俺は、その様子を眺め、俺の脳に復習をさせる。次に、オヤジさんの番だ。幾つかの質問を軽く答えていた。
《まず挨拶して、顔をまっすぐに見る。目的を聞かれる。次に滞在日数。よし、大丈夫だ》
俺が呼ばれた。足がガクガクだ。パスポートを差し出した。胸が張り裂けるほど緊張する。意外にも、スムーズに審査が済んだ。
「センキュウ・・」
にこやかに礼を言うことができた。急に心が軽くなる。心配顔の明恵母さんが微笑んでくれた。
「上手くできたようね。洸輝・・」
真美はアメリカ人専用の入国審査の列から、俺を見ていたようだ。急ぎ戻ると、俺にハグをしながら言った。
「うん、できたよ。ただ、頭の中はボーっとして、俺の軽い脳が勝手に答えていた」
それを聞いた三人は、大笑い。
「さあ、荷物を探そうか?」
「そうね。私たちの荷物は問題ないと思うけど・・」
「洸輝、荷物検査は私と一緒よ。いいわね」
「はいよ。離れずに、真美のお尻を見ながらついて行きます」
「何言ってんの。洸輝の変態!あはは・・」
明恵母さんとオヤジさんが、俺たちを呆れた顔で見た。
「まあ、仲の良いふたりね。ふふ・・」
全員の荷物検査もスムーズに通過し、やっとロビーに出ることができた。