「いえ、叶わないものを待ち望むより、真相を早く知れて良かった。だから、明恵母さんは自分を責めないでください。母さんの死を明らかにしてくれて、ありがたく思っていますから・・」 「そうかしら・・」 明恵母さんは、済まなそうに顔を下に向ける。 「そうだね、洸輝君の言うとおりだ。いつまでも待ち続けるより、良いかもしれん。これで、明恵をこだわりなく母さんと呼べるだろう」 オヤジさんが、隣に座る明恵母さ…
「・・・」 真美は何も答えてくれなかった。 《真美よ、俺の心は変わらない。ごめんな・・》 「・・・」 俺はしばらく待ったが、諦めることにした。 「オヤジさん、一本頂きます」 「うん、沢山あるから、何本でも食べていいよ・・」 団子を食べながら、真美の様子を盗み見た。すると、怖々とみたらし団子に触れようとしているではないか。 「どうしたの、真美? 団子が嫌いなの?」 明恵母さんも見ていたよう…
明恵母さんの言葉に、真美は事情が分からずキョトンとしている。 「奥さん、どうしますか? 俺の靴を脱がしてください」 ハッと気付き、まんまと謀られたことを知った。 「あら、ダ~リン! お手伝いしますわ」 俺の服を脱がせようとする。これには焦った。 「わ、分かったよ。ご免、ご免、謝るから・・」 そこへ、オヤジさんが帰って来た。 「玄関口で、服を脱ぐなんて・・。何している?」 「あっ、お帰りな…
やはり、真美は俺の心を読んでいた。 「そんな見え透いた考え、許すと思うなら大間違いよ」 「えっ、俺は何も考えていないぞ」 頬を膨らませ俺の前に立ち塞がる。そして、胸の前で腕を組み、上目使いで身構えた。 《ほ~ぅ、なんて、可愛い仕草をするんだ。う~ん、参ったなぁ。ふふ・・》 彼女の膨らんだ頬を、俺は両手の人差し指で押した。すると、尖らせた口からプッと息が漏れる。 「アッ!」 真美が驚きの声…
狭い墓地内の中ほどに、その墓石が建てられていた。 《そうか・・。母さんは、ここに納められているんだ。やっと会えたね》 だが、記憶に残る僅かな温もりを、もう確かめることができない。その記憶が逃げないように、線香を持たない右手の拳を固く握りしめた。 その様子を察した真美が、握りしめる拳を両手で覆う。真美の手のひらは、俺の拳を慰めた。 《ありがとう、真美。大丈夫だから・・》 「そう、良かったね。…
確かに、何も疑わず導かれるまま、ここに来ている。 「不思議なことに、主人が骨壺を納めようとしたとき、声無き声が主人の体へ伝わったそうよ・・」 「・・・」 俺は目を見開き、ただ呆然と聞き入るだけだ。 《あのチラシだけど、アパートの郵便受けに挟まっていた。他の住人には挟まっていないので、俺は訝しく感じ捨てようと思った。だけど、何故かタイトルに惹かれて、ポケットに仕舞ったんだ・・》 「明恵母さん・…
明恵母さんは、前屈みになり両肘をテーブルに置く。こめかみを両手の親指で軽く摩る仕草。おそらく、昔を懐かしむ思い出ではない記憶を、無理やりに心底から引きずり出すのであろう。 両肘の間から、苦渋に満ちた声が聞こえてきた。俺と真美は、耳をそばだてる。 「新潟の角田岬灯台の近く・・だった。圧倒的に迫りくる絶景は・・、あなたのお母さんが選ぶだけあって・・、素晴らしい大自然に囲まれた場所だったわ」 「そ…
「何が、知りたいの?」 「ええ、ん~、実は、母さんのお墓を知りたい。それに、母さんの最後の場所・・」 心の奥にわだかまりを感じているせいか、俺はぎこちなく話す。 「お母さん! 私たちの結婚をお墓で報告したいの。それと、その命を絶った場所へ行き、彼の母親へのこだわりを整理させたいと思っているわ」 真美はストレートに俺の気持ちを代弁する。聞きながら、彼女らしい説明のやり方だと感心した。 「そうね…
明恵母さんは、朝から待っていたらしい。家の前に車を停めると、直ぐ玄関口に顔を覗かせた。 「いつ来るかと、落ち着かなかったわ。お帰りなさい」 その様子に俺と真美は、顔を綻ばせる。 「ただいま、お母さん!」 真美は、明恵母さんに抱きついた。俺は、目を合わせ軽く頷く。 「お昼は食べたの? お腹、空いてない? 簡単なもの作ろうか?」 矢継ぎ早に質問する。 「うふふ・・、お母さん! 私たち、お腹が…
ふたりは黙々と食べた。話をする暇も無く食べ終わる。 「ふぅ~、食べた、食べた。満足したよ」 「そうね。でも、デザートが食べたいな。洸輝は?」 「え~、まだ食べるの?」 「当たり前でしょう。デザートを食べなければ、食事が終わりと言えないわ。私はマンゴー・パフェにする」 デザートの名前を聞いた途端に、俺も欲しくなった。 「俺も同じものでいいよ」 ベルを鳴らし、デザートを注文する。俺はドリンク・…