謂れ無き存在 ⅥⅩⅤ
「これから、国内線に乗り換えるのよ。洸輝、迷子にならないでね」
国内線のロビーから、国内線受付けに向かう。どこを見ても、外国人の顔ばかりだ。俺は恐怖を感じ始めた。
「どうした、洸輝君。先ほどから、キョロキョロと落ち着きが無いね」
「オヤジさん、ほとんど日本人らしき人が見当たりません」
「アハハ・・、いなくても、私たちがいるじゃないか。心配ないよ」
しかし、俺は日本人ばかりの生活に慣れていたから、どうもしっくりこない。
「洸輝。私だって、最初に日本へ行った時は、不思議な環境だったわ。日本人ばかりの世界に驚いたもの」
「そうか。真美は反対の環境だったね。でも、俺は慣れるかなぁ。心配だ」
「大丈夫よ。帰る頃には、問題無いから。さあ、受付けよ」
デルタ航空の国内線。ミネアポリスからカトマンズへ。乗客が少なかった。小さな飛行機である。一時間ほどで到着。
「着いたわ。お母さん、静かな空港でしょう」
「ええ、そうね。外国の旅行は、このような出会いが楽しいのよ」
「そうさ、人ごみで混雑の空港はうんざりだ」
飛行機から降りて、空港施設まで歩いた。かなり、冷え込んでいる。
「思った通りだ。真美、やっぱり寒いね」
「それほどでもないわ。これくらいが、私は好きよ」
《絶対に寒い。真美は、意地悪だ》
「あら、これが意地悪なの?」
「あっ、いいや、親切です」
施設に入ると、荷物が届くまで待つことになった。想像以上に空港設備が頼りない印象だった。
「真美さん、これからの予定は?」
心配顔のオヤジさんが、真美に聞く。
「ええ、これからタクシーを頼むの。ちょっと大きめのタクシーだけど」
真美が頼んだタクシーは、奇抜な車であった。人が乗れるカーゴ兼用車。
「これは、愉快だ。楽しい旅だ」
オヤジさんは大喜び。俺も嬉しくなった。