謂れ無き存在 ⅥⅩⅠ
成田国際空港出発ロビーに到着。俺は、ただ三人の後を従うだけだ。頭の中は真っ白で、何も考えが及ばない。ANA航空のカウンターでチケットの手続き。旅行ケースを預けると、出発時間まで空港内を散策。
オヤジさんが早めの昼食を提案し、階上のレストランへ行く。滑走路が見える窓際に座った。
《旅行の間は、レストランの食事ばかりだろうな。帰るまで、日本食はお預けだ》
俺は天ぷら定食を頼んだ。他の三人は、サンドイッチを注文する。
「えっ、俺だけ定食かい? なんだか仲間外れの気持ち・・」
「そんなこと、気にしないで。私はこれで十分よ」
「私も、そうよ。飛行機に乗るときは、いつもこんな感じなの。ねえ、あなた・・」
「私の場合は、お腹にガスが溜まるのが嫌なのさ。出たら、隣が困るだろう?」
オヤジさんがおどけて言う。
「当たり前じゃないの。もう、はしたないこと言わないで・・」
明恵母さんがたしなめる。
「洸輝、大丈夫よ。私が持っているから・・」
「何を持っているのさ?」
真美が、困った顔。すると、それを察したオヤジさんが答えた。
「飛行機の長旅は、食べても運動しないから、ガスが溜まるのさ。お腹が張って痛むか、出す物を出してスッキリさせるかだ。飛行機の中は狭いから、所構わずとはいかんだろう。あっはは・・。だから、ガス止めの薬が必需品だよ。特に女性はね」
理解した俺も笑い出した。真美と明恵母さんが、呆れた様子だ。
「洸輝、お父さんも止めてよ。ここはレストランなの、分かった!」
真美が険しく注意したので、俺はしょげ込む。オヤジさんは、まだ笑っている。
「あなたも、いい加減にしてちょうだい」
明恵母さんが、我慢できずに叱責した。
「分かった、分かったよ。申し訳ない」
この様子に真美と俺は、クスクスと笑い出してしまった。食後の飲み物を済ませると出発ロビーへ戻る。
しばらくして、俺たちの出発時刻になった。パスポートとチケットを確認する。
「問題無いね。さあ、入ろうか・・」
明恵可さんとオヤジさんが、腕を組み前を行く。俺と真美はしっかりと手を繋ぎ、列に並んだ。