謂れ無き存在 ⅥⅩⅢ
機内の時間は、俺にとって随分長く感じられる。幾度も時計を確認。ただ、真美のお喋りが退屈を凌いでくれた。
早い夜が訪れ、軽い夜食後に機内の照明が落とされた。慣れない体のリズムが、目を覚ましたまま過ごす。真美と前のふたりは、静かに寝入っている。仕方なく、俺は耳にイヤホンをつけ、好きな音楽を選んで聴く。
突如、機内が明るくなり、俺は目を開けた。いつの間にか、眠っていたのだ。
「良く眠れたようね」
目を覚ました俺に、真美が気付く。
「う~ん、寝た記憶が無いんだ。でも、寝たんだよな・・」
「うふふ・・、可笑しな人ね」
ホット・タオルが配られる。
「あ~、気持ちがいいなぁ。目が覚める・・」
しばらくして、朝食が用意された。簡単なサンドイッチを食べる。真美が食べられないと言って、半分を寄越した。
「もう直ぐ到着よ」
「そうか、到着か。アメリカに到着か・・」
俺の胸は高鳴る。
《現実のアメリカを目にするわけだ。ドキドキするな・・》
「テレビで見るアメリカと、変わらないわ。がっかりしないでね」
真美の言い方は、複雑な心情を表している。
《そうだよな。真美にとって、苦しく寂しい思い出の国なんだ》
「そうよね、嫌な思い出ばかり。でも、ママの思い出が残っている国よ」
「確かに、お母さんが選んだ国だから、全てを否定できない。真美の幼少期は、楽しい思い出のはずだ」
真美が俺の頬にキッスする。
「ありがとう、洸輝らしい思いやりね。本当に大好きよ」
「いいや、この感情は真美だけしか、通用しないはずだ」
機内アナウンスが、まもなくミネアポリス空港に到着する旨を伝えた。
「さあ、もう直ぐ着くわ。これからが、私の出番ね」
「ああ、頼むね。俺の脳は空っぽだから・・」
「うふふ・・、面白いこと言うわね。お任せあれ~」