偽りの恋 ⅥⅩⅠ
千恵の瞳が眩しい。涙にキラリと光る。
「あぁ、・・・」
答える言葉が見つからず、俺の意識が脳内を彷徨う。
「金ちゃん、嫌なの?」
間近に迫るピンクの蕾。すーっと俺の唇に触れた。俺の意識は彷徨うのを忘れ、煩悩の誘いに頷いてしまった。
俺の左手が千恵を引き寄せ、しっかりと抱きしめてしまった。
「あ~、好き・・」
千恵の甘く切ない声が、俺の口の中で騒ぐ。俺の右手が不自然に動いた。彼女の体が瞬時に反応し、仰け反り声を上げる。
「ア~ァ、金ちゃん・・」
その声と同時に、砕けた波の飛沫が二人を覆う。俺の意識が呼び覚まされ、煩悩の誘いから辛うじて逃れる。
「わ~、びしょびしょになっちゃう。もう、いつもこうなんだから・・」
二人は慌てて岩場から逃げる。俺のズボンと靴がぐっしょり濡れた。
「いや~ぁ、参ったね。靴とズボンがぐしょぐしょだよ。千恵ちゃんは大丈夫か?」
「私は、ミニだから平気よ。だけど、サンダルが濡れちゃった。うふふ・・」
鼻先を、いつもの仕草でちょんちょんと弾く。
「ん? 何が可笑しいのさ?」
「だって、肝心な時に、いつも邪魔が入るんだもん」
確かに、そうだと俺も思った。でも、助かったと思い安堵している。
「確かに、残念だね。でも、それで、いいんじゃないかな」
「何が、いいのよ・・」
千恵が頬を膨らませ拗ねる。そのおちょぼ口が可愛らしい。
「もう、そんなに拗ねるなよ。これで良いと思う。俺には・・」
千恵は俺の言葉を待つ。俺は答えられない。飲み込んだ言葉は、彼女を苦しめると分かっているからだ。
「ねえ、早く話してよ。もう、焦らさないで!」
千恵が苛立って、俺の顔を覗き見る。
「うん、でも、この話は別の日に話そう」
俺を直視する千恵の瞳が、涙で溺れた。それでも、俺を見詰め続ける。