謂れ無き存在 ⅣⅩⅦ
明恵母さんは、朝から待っていたらしい。家の前に車を停めると、直ぐ玄関口に顔を覗かせた。
「いつ来るかと、落ち着かなかったわ。お帰りなさい」
その様子に俺と真美は、顔を綻ばせる。
「ただいま、お母さん!」
真美は、明恵母さんに抱きついた。俺は、目を合わせ軽く頷く。
「お昼は食べたの? お腹、空いてない? 簡単なもの作ろうか?」
矢継ぎ早に質問する。
「うふふ・・、お母さん! 私たち、お腹が破裂寸前よ」
「あら、そんなに美味しいものを、ふたりだけで食べたの? 狡いのね、私を誘わないで・・」
俺と真美は、顔を見合わせた。
「ごめんなさい、お母さん・・」
真美は明恵母さんの肩を優しく抱く。
「いいのよ。ふたりだけの時間に、邪魔したくないもの」
「あ~、お母さん! 次は、必ず誘うから・・」
「分かったわ。さあ、紅茶を飲むでしょう? 美味しい和菓子があるの」
キッチンのテーブルに俺はひとり座る。相変わらず止まることのない会話を、真美は話し続けた。明恵母さんは真美との会話が嬉しく、笑みが絶えない様子だ。
「さあ・・、真美・・、座ってよ」
三人が座り、漸く落ち着く。家族団らんの雰囲気だ。この雰囲気は、俺の夢でもあった。
「洸輝は、さっきから一言も話さない。どうしたの? 言葉を忘れたのかしら」
「いや、忘れてなんかいないよ。真美の機関銃が止まらないからだ」
「おほほ・・、そうね。話す機会が無いくらいに、連射していたもの」
「そうでしょう? 弾が切れ、やっと静かになった」
真美の顔を窺うと、容赦しない目つきだった。俺は余計なことを言ったと後悔する。
「あっ、それで、今日は聞きたいことがあります」
俺は話題を変える作戦に出た。だが、真美は諦めないようだ。俺は、構わずに話し続ける。
「実は、真美の考えなんですが、俺の母さんの件で知りたいことが・・」
真美が頷いた。上手く機嫌を取り戻せた。
「いいえ、機嫌はそのままよ」
「え~、騙された」
明恵母さんは、ふたりの妙な会話に首を傾げる。