謂れ無き存在 ⅣⅩⅥ
ふたりは黙々と食べた。話をする暇も無く食べ終わる。
「ふぅ~、食べた、食べた。満足したよ」
「そうね。でも、デザートが食べたいな。洸輝は?」
「え~、まだ食べるの?」
「当たり前でしょう。デザートを食べなければ、食事が終わりと言えないわ。私はマンゴー・パフェにする」
デザートの名前を聞いた途端に、俺も欲しくなった。
「俺も同じものでいいよ」
ベルを鳴らし、デザートを注文する。俺はドリンク・バーに行き、二人分の紅茶を持って来た。真美は瞳をキラキラと輝かせて、礼を言う。
「センキュウ、ダーリン!」
「ノウ、サンキュウ、マミ!」
彼女は一瞬驚き、目を見張る。
「アッ、英語を喋った・・」
「何も驚くことじゃ、無いよ。当たり前のことさ・・」
真美が笑い出したので、俺も釣られて笑ってしまった。
「アハハ・・、愉快だわ。ウフフ・・」
「ハハ・・、別に・・、ハハ・・」
笑いながらふたりの瞳が絡み合う。真美の顔が真剣になった。
「洸輝、約束してくれる?」
「何を?」
「あのね、あなたのお母さんが亡くなった場所と、お墓参りに行った後・・」
「・・・」
「私と一緒にアメリカへ行って欲しいの」
「どうして?」
「うん、ママに運命の人を紹介したいの。私の愛する洸輝を・・」
「そうか・・。真美のためなら、行ってもいいよ。だけど、喜んで貰えるかな?」
「大喜びするわよ。だって、洸輝はママの親友の子ですもの」
《アメリカなんて、俺には縁のない国。絶対に行けないと思っていた。それが、簡単に行くことになってしまった。なんだか俺の運命は、誰も想像できない方向へと向かっているようだ。果たして、これで良いのかな?》
「ほらほら、また余計なことを考えている。先生が言ったでしょう。洸輝の運命は、真っ白だって・・。徐々に運命の道が現れるの、それが現実よ。その現実を、理解しなければいけないの・・、洸輝は」
半時後、不動屋さんを訪ね、アパートの解約手続きを済ませる。
「明恵母さんに会って、例の場所を聞き出さなければ・・」
「ええ、そうね。早く行きましょう」