ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅢⅩⅢ 

「ところで、三浦半島の件だけど?」 「うん、何が?」 「経費とか、詳しいことが知りたい」  大山の説明では、費用は寮の参加者が負担する。相手の女の子たちは、食事代だけだ。バス内の席も抽選で決めるという。 「バスは、どこから借りるのさ?」 「ああ、レンタカーだよ」 「運転は・・」 「寮長の海田さんが、運転するよ。心配ない」  俺はなんとなく納得する。  その旅行の前日になった。 「そろそろバスが来…

   偽りの恋 ⅢⅩⅡ 

 計画は誰かの意見で決めた訳でなく、食堂でなんとなく喋った話が現実化した。大山と木村が実行委員らしい。 「大山さん、三浦半島の件だけど、俺は知らないよ」 「あれ、部屋の机の上に、メモを置いたけどなぁ」  探したけど、結局見つからなかった。でも、食堂の掲示板で確認する。  その後、佐藤さんとは夕食後の時間に、外で待ち合わせる。特に切々な思いで、デートをすることでもない。他愛のない話題を話すだけだ。…

   偽りの恋 ⅢⅩⅠ 

 仕方なく、本当のことを打ち明ける。 「実は、あの人とは・・」 「ううん、言わなくてもいいわ」  出鼻をくじかれる。俺は唖然とした。 「えっ、どうしてさ?」 「当たり前でしょう。金ちゃんの好きな人が、誰だって言いの。私には関係ないもの」  確かにそうだ。俺だって、人の恋話なんて聞きたくない。 「そうだよね。ごめん、ごめん」 「いいの、謝らなくて。ところで、夏休みに三浦半島へ行くこと、知っている?…

   偽りの恋 ⅢⅩ 

 情けない自分を恨めしく思う。心の奥に封印できない弱さを嘆く。ベッドから起き上がり、洗面室で顔をゴシゴシと洗った。幾分気が晴れ、再び食堂へ顔を出す。 「金ちゃん、ちょうどいいところに来た。ちょっと変わってくれ」  木村の代わりに、俺が麻雀することになった。別に嫌いじゃなかったので、卓に座る。 「大丈夫か? あまり元気が無いけど・・」  大山が気遣う。 「いや、平気です。久々に、別れた人と会ったの…

   偽りの恋 ⅡⅩⅨ 

「今更だけど、直接に言ってもらいたかった。自分の口で答えるつもりだったのに・・」 「・・・」 「私は、両親が反対しても、あなたと結婚する覚悟だった」 「そんな・・」 「ええ、本当よ。でも、もういいの」  あの人は悲しい目で俺を見る。俺の心は、挫けそうだ。 「そうか・・、ごめん」  俺は、ただ謝るしかなかった。 「お元気でね。さようなら・・」  あの人が席を立つ。 「あっ!・・・」  一瞬目が合っ…

   偽りの恋 ⅡⅩⅧ 

「君と結婚して、幸せな人生を共に過ごしたいと願った。それは誰でも求めることだし、初めから離婚なんて考える人はいない。そうだろう?」 「ええ、思うわ」 「それと同じに、生きる意味を考えた。産まれ、死ぬ、これは全ての人に当てはまる。だから、生きているうちに何をやりたいか。それが夢だと思う」 「・・・」 「夢を最初から諦める人いるだろうか? 幸せの価値観で、諦める人もいるはずだ」  あの人が、なにか閃…

   偽りの恋 ⅡⅩⅦ 

 確かに、俺は答えられない。自分の理不尽な振る舞いに、呆れる。 「夢を求めていた時期もあった。でも、君に出会い、夢を諦め君を選んだ」 「・・・」 「今でも、君を諦めたくない。ただ、入院中に考えが変わった」 「どうして?」  長谷川さんの顔と手紙を思い出す。 「一言で言い表せない。でも、幸せの価値観が変わったと言える」 「幸せの価値観?」 「うん、価値観だ。人を恋して、愛を得る。これは生きるために…

   偽りの恋 ⅡⅩⅥ 

 あの人の了解を得ず、ご両親に結婚を申し出たのである。言うまでもない、後日、体良く断わられた。俺は後悔していなかった。 「どうして、先に言えなかったの?」  あの人の視線は、怒りと悲しみ、それに憎しみと憐みが複雑に絡み合っている。 「ごめん、君との結婚は絶望的に思えた。君に言えば、君から否定の言葉を聞くことになる。それだけは、避けたかったんだ」 「そんな・・」 「そう、どちらにしても、君を傷つけ…

   偽りの恋 ⅡⅩⅤ 

 浅黄色の封筒から、丁寧に畳まれた便箋を取り出す。  俺はドキドキしながら広げた。優しい文字が、踊るように書かれている。 『ほんの僅かな間だったけど、あなたに会えて良かったわ。弟のような、彼氏のような。どちらでも構わない。身近に話せた男性は、あなたが最初で最期の人。ありがとう。  やりたいことが沢山あったわ。もちろん、外国旅行も行きたかった。でも、無理だった。死んだら、何もできないもの。残念だわ…

   偽りの恋 ⅡⅩⅣ 

 「彼女、あまり具合が良くないの。強い痛み止めの注射で、会話は無理かもしれない。でも、金本さんに会いたがっているわ。先生には内緒よ」  長谷川さんの病室のドアに、面会制限の札が掛けられている。看護師に促され、俺は静かに病室の中に入った。 「・・・」  しばらくの間、黙って長谷川さんの顔を見詰める。ベッド脇のモニター音だけが聞こえた。  俺の気配を感じたのか、長谷川さんが徐に目を開ける。 「やあ、…