ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅡⅩⅣ 

 「彼女、あまり具合が良くないの。強い痛み止めの注射で、会話は無理かもしれない。でも、金本さんに会いたがっているわ。先生には内緒よ」
 長谷川さんの病室のドアに、面会制限の札が掛けられている。看護師に促され、俺は静かに病室の中に入った。
「・・・」
 しばらくの間、黙って長谷川さんの顔を見詰める。ベッド脇のモニター音だけが聞こえた。
 俺の気配を感じたのか、長谷川さんが徐に目を開ける。
「やあ、・・・」
 言葉が見つからず、簡単な挨拶をした。彼女は、小さく頷く。
「金本さん、傍に座ってあげなさい」
 看護師が椅子を用意して、俺を座らせる。
「何かあったら、枕元のベルを押してね。直ぐに来るから・・」
 年配の看護師は、忙しく部屋を出て行った。
「この間の話は、面白かった・・」
 囁くような声。
「そう、良かったね」
「あれって、インカのかぐや姫でしょう?」
「うん、そうだよ・・」
 長谷川さんの顔に笑みが零れた。俺も微笑む。
「ごめんね、部屋に呼んで・・」
「いや、構わないよ。暇なんだから・・」
「来て・・くれて、ありが・・とう・・」
 薬が会話の邪魔をする。
「無理に話さないでね」
 長谷川さんの顔が頷いたかに見えた。静かな寝息が聞こえてくる。
「ゆっくり休んでね・・」
 俺は部屋を出ると、そのまま自分の病棟に戻った。
 その夜、長谷川さんの看護師が、俺の病室へやって来た。
「ごめん、渡すの忘れちゃった。この手紙、長谷川さんから頼まれていたの」
「えっ、俺に?」
「そうよ。手を震わせながら、必死に書いていた」
「・・・」
「最後の手紙かなって、言っていたわ」

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