ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

  嫌われしもの 遥かな旅 Ⅱ

「さ~てな。ワシらの仲間は寒さに弱いからなぁ~。世界中と言っても、温暖な国や熱帯雨林からの参加が多いはずだ。この地球上には、およそ四千種、一兆四千八百億匹が生息している。参加数は全く想像がつかん。だから、ワクワクしているよ。講演は仲間の夢について、話す予定だ」 「じゃ~ぁ、日本の仲間は~、どれほど・・、いるのかしら~?」  ブリ子が艶めかしくウットリとした声で聞く。ワシは、その声に目を細めた。 …

  嫌われしもの 遥かな旅 Ⅰ

《これから始まる物語は、あんたら人間どもが、とても理解できないであろうワシらの世界だ。  この地球上に、ワシらよりもずっと後に現れた人間どもよ!  猿人(アウストラロピテクス)から旧人類(ネアンデルタール)、新人類(クロマニョン)に進化してきたと言われているが、ワシらだけが真実を知っている。でも、先祖さまの遺言で教えられない。  何故なら、美しく豊かな地球を我が物顔に振る舞う人間どもが、許せんか…

  漂泊の慕情  Ⅹ

 その夜、私の荷物はそのままにして、彼の部屋で過ごす。ベッドの中で愛を確かめ、少しでも彼の不安を慰めた。  翌日は、彼の運転で州立公園やマウナ・ケア山などを観光する。彼は歩くとき、常に私の手を携え不安から逃れようとした。私はできる限り甘え、彼の恐怖を和らげようと努める。  夕日が沈むハワイの海を眺めながら、彼に話し掛けた。 「一緒に住もう? 私が傍にいれば、いつでもあなたを慰められるわ。私が、あ…

  漂泊の慕情  Ⅸ

 翌日の午前に、ヒロ方面をドライブ。左ハンドルに慣れていないので、神経が張り詰め緊張する。コナ・コーヒー農園に行き、美味しいコーヒーを飲む。行く当てもないドライブは、やはり楽しく過ごせない。況して、常に彼の顔が浮かぶからだ。私はドライブを切り上げ、早めにホテルへ戻った。  ホテルの前に近づくと、日本人の青年が玄関口の階段を上がるところであった。その姿がきわやかに見え、私の心臓が大いに飛び跳ねる。…

  漂泊の慕情  Ⅷ

 私は会社に事情を説明して、一週間の有給休暇を取得。直ぐに旅行の手続きを行なう。 三日後に、私は羽田発のハワイアン航空に乗る。およそ七時間のフライトでコナ国際空港に降り立った。開放的な空港に目の前に広がる溶岩帯は、やはりホノルルとは異なるハワイの気分を味わう。  前回は、気の合う友人たちと訪れリッチなホテルに宿泊したが、今回は旅行気分ではない。ノースコナ、ホルマロアのコナ・ホテルに宿泊。  この…

  漂泊の慕情  Ⅶ

 ホテルをチェックアウト後、乙女の像の前で落ち合う約束をしていた。半信半疑で私が行くと、間違いなく彼は先に来て待っていた。彼の姿を見た瞬間、私の胸がキュンと締め付けられる。 「おはよう、昨晩は良く眠れましたか?」 「えっ、はい、良く寝ることができました。起きたら、とても爽快な気分でしたわ」  寝不足の顔を知られないよう、今朝は念入りなメイクをしたつもり。もしや、露見したと思い込みドッキとする。ど…

  漂泊の慕情  Ⅵ

 私は彼と交際してからの期間を、思い返す。三年前の夏に、十和田湖の奥入瀬渓流をひとり訪ねたとき、湖畔の乙女の像を眺めていた私に、横から声を掛けたのが彼だった。 「私は、この作者の道程という詩が好きなんです・・」  彼の声は、囁くように静かな語り口であった。 「えっ? 高村光太郎の詩ですか・・。我が前に道は無し・・」  突然に声を掛けられ、戸惑うも直ぐに言葉を返してしまった。 「あっ、いや、独り言…

  漂泊の慕情  Ⅴ

「初めまして、突然にごめんなさいね」 「いいえ、こちらこそ・・」  彼の姉は、背がすらりとして穏やかに話す人であった。想像したとおり、顔の輪郭や性格が彼に良く似ている。その所為か、初めて会うにしては緊張することも無く、意気投合することができた。  友人から届いた手紙を、姉に見せる。彼女は手紙の内容に大きく息を吸い、驚きの表情を面に出した。 「こ、これは・・。私も知りませんでした。あ~、なんてこと…

  漂泊の慕情  Ⅳ

 仕事から家に帰るたび、あの手紙が気になってしまう。封を途中まで開けたが、決心がつかず止めた。破棄して捨てることもできない。机の引き出しの奥へ、目の前から隠すように仕舞い込んだ。  最初の手紙が届いてから十日過ぎに、新たな手紙が届く。今回の差出人は、女性の名前であった。それも、彼と同じ名字が書かれてある。 「彼と同じ名前の女性って、誰かしら?」  私は半信半疑ながら、恐る恐る封を開ける。 【拝啓…

  漂泊の慕情  Ⅲ

「そうだわ・・、明日、仕事の合間に電話をしてみようかしら・・」  翌日、昼時間に彼の携帯へ電話を掛けてみるが、一向に繋がらない。仕事を終え、再度掛けてみるが通話不能であった。  その翌日も、また翌日も掛けるが、やはり通話不能である。私は胸騒ぎを感じた。  交際初めて直ぐに、職場への電話はしないと互いに約束しあった。 「どうせ、会わないと振られたんだから、問題ないはずよ。よし、掛けちゃおう」  私…