「あっ、あれは口からの出任せです」 「ほ、本当か? ワシは知らんぞ。あの豊満なメスの怖さ・・。あ~ぁ、おぞましいことが起こりそうだ」 ワシは鳥肌が立つ。この旅は、何故か鳥肌が立つことばかりだ。 「なんですか、マダムとの約束とは?」 ゴキジョージが不思議な顔で聞き、触角をピィーンとアンテナのように立てる。 「いや、ここへ来る前に出会った、横浜のマダム・イヤーネのことさ。渡航する船を教えてもらう…
ブリジョンソンのうんざりする長い挨拶が終わり、各大陸代表の報告発表が始まった。 「初めに、ユーラシア大陸代表の方は、こちらへどうぞ」 誰も壇上へ現れない。会場内がざわつき、ワシと黒ピカはキョロキョロと辺りを見渡した。 「お静かに願います。どうやら、ユーラシア大陸代表のイタリアのゴリジェラーノさんは、大会に参加できなかったようですね。それでは、アフリカ大陸代表のボツワナのゴキゴキさん、お願いし…
「リーダー、残念ですね。船内で話をした仲間もいたでしょうね」 《ほう、もう冷静になっておる。うふふ・・、少しは成長したと思ってもいいのかな》 「そうだな、残念だが仕方ない。これが、無常の風よ」 「それは、なんの風ですか?」 ヤツは、次の疑問に心を惹かれ、目を輝かした。 「この世の命は、誕生と死滅の法則があり、それは永遠に変わらない。風が吹いて花を散らすように、無常の風がこの世に生きるもの、全て…
「でも、オイラは勉強をしたい。この旅で自分の知識が足りないことを知り、リーダーを目標に頑張りたいと思います」 「照れることを言うな! 旅はまだまだ続く、多くを感じて学ぶことが成長だ。それが、この旅の大切なお前の目的だよ」 「はい、リーダー。しっかり成長します」 《ワシは嬉しいぞ。一緒に旅をしながら、お前の成長を見て行けるとは・・》 サントス港は、リオ港から南へ四百キロ。海岸山脈が目の前に広がる…
救命ボートに戻るが、隅でジッと動かない黒ピカ。心配するブリ―リアがヤツの体に優しく触れる。ヤツはブリ―リアを抱きしめるが、大きすぎてハグができない。代わりに彼女がハグをすると、黒ピカが押し潰された。その滑稽な様子に、他の仲間たちが冷やかす。黒ピカが、ようやく照れ笑いを見せた。 横浜を出港してから約一ヶ月、朝靄の静かなリオ・デ・ジャネイロ港に到着した。穏やかな海面を、数隻のタグボートに曳航され…
「大丈夫ですよ。あれらは体調が百十ミリで翅を広げると二百ミリになりますが、敵対心が無ければ友好的ですよ。あれらも人間を恐れています。ペットの食料用に捕獲されているので・・」 「ブリ―リアと同じだ! 可哀そうに・・。誰も信用できない目つきは当たり前だ。リーダー、そう思いませんか? オイラは必ず友達になって、安心してもらうよ」 《ため息が出るほど、お前の心は純真だなぁ。でも、心が成長しているのに、頭…
「人間どものペットで、ヘビやトカゲなどの爬虫類だってさ・・」 ブリカーノが説明する。すると、隣のゴキジョージが、にやにやしながら話す。 「だけど、俺たちの品評会を開き、艶の光沢具合や走る速さを自慢する愛好家の人間が、世界中にたくさんいるらしいよ」 「クックク・・」 「ムッフフ・・」 「いや、ワシらの仲間でシナなんとか・・の種族は、血行を促進する漢方薬に使われ、東アジアの人間どもに食べられている…
「ん? 何が横に・・」 振り向くと、腰が抜けるほど驚く。なんとワシらより数倍大きい仲間がいた。黒ピカは、恐ろしさに固まって動けない。相手は、ワシらをジッと探る様子で見ている。 長い触角で、黒ピカに触れようか迷っている。ワシは、どうも女の子らしいと気付く。慣れないスペイン語で話し掛けてみた。 「オラー、セニョリータ!(こんにちは、お嬢さん)コモ エスタ?(いかがですか?)ヴィエロン エル ハポ…
シャワー室から顔を見せたのは、黒ピカと友達になったハワイのゴキジョージであった。 「アローハ、ジャパニーズ・リーダー!」 「やあ、アローハ! ゴキジョージ、大丈夫でしたか?」 「はい、ハワイのメンバーはノウ プロブレム(問題ない)あなたのお陰です。マハロ(ありがとう)」 「いや、とんでもない。ところで、黒ピカを見ませんでしたか?」 「クロピーカ? ああ、キッチンにいましたよ」 《なにぃ、キッチ…
「それは、ハワイの仲間だ。アローハ(こんにちは)と挨拶して、英語で話せばいいのだ。まさか、英語がダメなのか?」 「話せませんよ。日本語だけです。オイラには、勉強する暇もなければできる頭も無い。リーダーは話せるのですか?」 「ああ、ワシの棲み処は中央公民館だった。英語教室や国際交流の集いがあり、知らぬ間に耳で覚えてしまった。ゴキ江や子供たちは、ペラペラだ。でもな、黒ピカよ。話せなくとも、友達になれ…