微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅠ
帰りが遅くなった若月。心細い態度で、帰り支度を始める。
「おい、若月よ。今晩、泊まれ・・」
「いいえ、着替えを持って来ていないので・・」
私は、しばらく考えた末、結論を出す。
「じゃ、私が行くよ。泊まる部屋は有るのか?」
「ん~、ソファなら・・」
明日の着替えを用意し、彼の車で千葉へ向かった。私は出掛ける前に、車内を清める。時折、オフのラジオから雑音が流れた。しかし、声は流れず私は安堵する。
「主任、本当に手段が見つかりますかね?」
「・・・」
「主任、聞いていますか?」
彼は恐れているのであろう。執拗に尋ねる。
「ああ、聞いているよ」
私は嫌な空気を感じていた。手帳を取り出し、話せない内容を書く。信号待ちの時、彼に読ませる。
「えっ?」
「シッ!」
口に指を立て、喋らせない。彼は咄嗟に口を噤む。
【奴らは、車のスピーカーから、こちらの様子を窺っているようだ。余計なことを話すな】
若月は目を合わせ、頷く。
「明日は、良い天気になりますかね?」
若月の機転に、私は笑いを堪える。
「そうだな、雨は降らないだろう」
私の相槌に、彼もほくそ笑む。
一瞬、車が横揺れをした。恐らく、こちらの対応を察したのであろう。苛立ちに車を揺らした。