微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅹ
その資料は、江戸の中期に書かれたようだ。筆文字なので、結構時間を要した。
「この部分が、気になりますね」
私が、指で示す。福沢も首を傾げる。
「確かに・・」
「え、なんですか?」
若月が、覗き込む。
「洞窟でしょう。その洞窟に、仏像が安置されている場所ですかね?」
「そんな場所が、この近くに有るだろうか・・」
三人は思い思いに、考え込む。
洞窟の仏像が、向こうの世界へ導くという。但し書きには、必ず体にご朱印を貼るようにと指示。
若月がタブレットで調べる。
「あっ、群馬県の高崎に、洞窟観音が有ります」
私は半信半疑で画面を覗いた。
「本当だ。詳しく調べてくれ・・」
「はい、・・・」
若月がタブレット画面を見続ける。その間に、私と福沢が資料の内容を確かめた。
「主任、洞窟観音の詳細が判明しました」
「そうか、じゃぁ教えてくれ」
高崎の洞窟観音は、故山田徳蔵翁が大正から約半世紀の歳月で人力で掘られたもの。約400mの奥行に36体の観音像が安置されている。その後、徳明園が作られ、財団が管理しているようだ。
若月が説明する。私と福沢が興味を持った。
「これは、可能性がある」
福沢が喜び、明日中に視察するという。私と若月は仕事のため、行けなかった。
「あ~ぁ、行きたかったな・・」
「仕方がないだろ。月曜日じゃなければ、私だって行きたかった」
福沢は、資料を置いて帰った。私と若月は夜遅くまで、その資料を読みふける。