謂れ無き存在 ⅣⅩ
食事をしながら、俺の心を読む真美。涙がホットケーキの上に零れ落ちる。真美が手の甲でふき取り、俺を直視した。
「ねえ、洸輝・・」
「ん?」
「明恵母さんから、お母さんのお墓を聞けるかしら? それに身を投げた場所も・・」
「え、何故だい?」
「だって、あなたはお母さんを恨み、自分の不幸をお母さんの所為にしていた。でも、お母さんの温もりを執拗に追い求めているでしょう?」
確かに、俺の気持ちはちぐはぐで、苦悩な日々を過ごしてきた。
「そうだね。過去の未練を執拗に追い求めていた。毎日が遣り切れなかった」
「だから、新しい道を歩むためにも、未練を断ち切るべきよ。でも、お母さんには感謝しなさい」
「・・・」
「お母さんは自分の死を選んだけど、あなたには生きる道を残した。結果、あなたは私の運命の人となった。だから、お母さんはあなたの幸せを望んだのよ」
真美の考えは、俺の心に光明を抱かせた。
「そうか、母さんを恨んではいけない。でも、死を選び身を投げるなんて、遣る瀬無い思いだ。どこかで生きていて欲しかった」
「私だって思うわ。私の親も・・」
真美の顔が沈む。俺は心が痛んだ。
「ごめん、真美の気持ちを置き去りにして、自分だけを考えてしまった」
俺は立ち上がり、座っている真美を後ろから抱きしめた。真美は目の前に合わされた俺の手に、軽く口を寄せる。
「ありがとう。私のダーリン・・」
真美の頬に俺の頬を寄せ、幾度も頷いた。
「まだ、食べきれていないわ。早く済ませましょうよ」
「そうだね・・」
俺は自分の席に戻ると、全てを平らげる。心まで満腹になった気分だ。
「ふ~ぅ、ご馳走さま。美味しかったよ」
「良かった・・。明恵母さんから料理を教わって、レベルアップしなければね。洸輝が食べ残さない様に、頑張って美味しいものを作るわ」
食事の後片付けを手伝う。
「ところで、向こうで一緒に住むのは止め、ここから通ったらどうかしら?」
「うん、俺も考えていたんだ。しばらく様子を見てからでも、遅くはないだろう」
「そうね、そうしましょう」
「分かった。今日は、やることが沢山ある」
俺は、バイト先に顔を出して、社長に辞めることを告げる。社長は驚いた様子だったが、内容を聞くと喜んでくれた。