偽りの恋 Ⅶ
正直に話すべきだろうか、俺は悩む。知り合ったばかりの人に、話すことでもないと考えた。
「いや、いないよ。恋なんて、ほとんどが片思いだろう。それに似た恋は、したことがあるけど」
佐藤は、顔色を窺う目で俺を見ている。
「そうかしら・・」
「ああ、そうだよ」
俺は、彼女の顔を直視する。瞳には、戸惑いが見え隠れしていた。
「そう、それなら、いいわ」
「何が、いいのさ・・」
窓の外に視線を見据えたまま、佐藤は何も答えない。ただ、白い肌が、ほんのり赤く染まる。その有様に、俺の鼓動が高鳴りを覚えた。
「ところで、金ちゃんは何歳なの?」
「え、俺の? うん、二十二歳になったばかりだよ」
「あら、私より若いのね。年上かと思った」
「え~、佐藤さんの方が、俺より二つぐらい若いと思ったよ」
「まあ、嬉しい。でも、私の方がオバサンなのね。残念だわ」
二人は顔を見合わせると、笑い出した。別の席に座る坂本たちが、怪訝な顔してこちらを見る。
「どないしたん? 何がそんなにおもろいねん?」
「いや、何もあれへんって。こちらを見たらアカンって」
坂本が、俺の関西弁に唖然とする。
「おい、金ちゃんのけったいな言葉、しんどいわ」
「こっちだって、慣れない言葉にしんどいよ。あっはは・・」
俺が笑い出したので、四人は笑いが止まらない。食事が運ばれて来たので、笑いは治まった。
食事が終わり、寮に戻る。坂本が、別れ際に次のデートを約束した。
「金ちゃん、来週は新宿へ行かへんか?」
「来週に新宿?」
予定は無いが、返事に戸惑う。ましてや、新宿には辛い思い出が残る場所だ。
「かめへんやろ。ええよな?」