偽りの恋 Ⅷ
俺は返事を保留にする。彼は納得せず、気分を損ねたようだ。
「約束、でけへんのかい。金ちゃんは、へたれやな~」
「えっ? 屁をたれた? 俺が、そんなことするかい!」
坂本は、目を丸くして驚く。
「よう言うわ。ちゃうよ、へたれは根性無しの意味や・・」
俺は意味が分かり、笑ってしまった。
「アハハ・・、大阪弁は分からん・・、ハハ・・」
「せやねん、めちゃ難しいやろ」
「坂本さん、頼むから標準語で話してよ」
「無茶や、でけへん」
翌日も、目が合うとデートの話になる。
「佐藤さんも行くのかい?」
「ああ、せやから約束してや。ええやろ」
特に予定も無いので、行くことにした。
「分かった。行くよ・・」
「ほんまか? ほな、連絡するわ」
坂本は、その夜に相手の子に連絡をしたようだ。
一週間が短く感じる。デートの前夜、坂本が意外な提案を打ち明ける。
新宿駅に降りたら、ホームの混雑を利用して別行動する。坂本は、エレベーターで地下へ行くから、俺には上の階へ行ってくれと言う。彼が何を考えているのか、理解に苦しむ。
当日の朝、佐藤たちと駅で待ち合わせた。
「金ちゃん、昨日のこと、ほな頼むわな」
「うん、了解・・」
佐藤たちが、現れた。彼女の装いは、春らしい服装で似合っていた。俺の顔を見ると、挨拶代わりに軽く手を上げる。
「やあ、おはよう」
俺は挨拶を交わし、佐藤に近づく。爽やかな香りが、俺の鼻をくすぐる。
「金ちゃんが、私たちを誘ったそうね」
「え、俺が?」
坂本は、俺を利用したようだ。彼が目配せする。俺は諦めた。
「まあ、そんなもんかな。今日は、ありがとう」
「いいえ、いいのよ。どうせ、暇だったから。誘ってくれてありがとう」
日曜日のためか、小田急線の車内は混んでいた。