偽りの恋 Ⅲ
夕食が終わっても、誰一人席を外す者はいなかった。この機会に、ぎこちない態度や話し方も薄れ、全員が打ち解ける。歳の差や境遇も関係ない寮の仲間になった。
ただ、それぞれの過去や価値観に対し、決して侵害しない暗黙の了解を俺は感じた。
《海外に生活を求めるには、それなりに理由が有るはずだ。その点、俺は逃避かもしれんな。海外に志を目指す? そんなかっこいいことじゃない。俺のことは、口が裂けても話せない内容だ》
どうにか一ヶ月が過ぎ、ゴールデン・ウイークの連休に入る。近県出身の仲間は地元に帰るが、それ以外は寮で過ごした。俺は悩んでいた。
《どうする? でもな、会うこともできない。会っても苦しいだけだ》
「よう! 深刻な顔して、どうしたんや?」
大阪出身の坂本が、部屋の入口から声を掛けた。
「うん、帰ろうか悩んでいた」
「なんや、悩むこと無いやんけ。どうや、俺に付き合えや」
坂本は気さくに俺を誘う。
「えっ、どこへ?」
「あ~、近くに菓子工場の女子寮があるやろう。そこの子とデートや」
女子寮の子を誘ったら、相手が二人で来るらしい。それで、俺に声を掛けたという。
「ああ、いいよ。どうせ暇だから・・」
「そうか、おおきに。じゃ、三十分後に玄関やでぇ・・」
坂本は俺の肩を叩き、自分の部屋に戻った。
《まあ、気晴らしに、いいかな。でも、どこへ行くんだろう》
三十分後に玄関へ行くと、既に二人の女の子が待っていた。二人は軽く頭を下げ、挨拶をした。
「こんにちは・・」
俺も、挨拶を返した。