偽りの恋 Ⅱ
入学式が終わり、学校の敷地内にある寄宿舎に戻った。二人部屋の同居者は、四国宇和島出身の佐川であった。俺より三歳年上である。二段ベッドが置かれ、佐川が先に上を選んだ。俺も上を望んでいたが、年下の俺は諦めるしかなかった。
同期生は二十人。二十二歳の俺が一番年下で、早稲田工学部出身の海田が二十七歳の年長者であった。
寮は自治制で、寮長に海田が選ばれた。俺は学校との連絡係。雑務だが、気楽な担当で良かったと安堵する。
俺の人生に、二度と味わえない寮生活がスタート。
久々の授業は辛いと感じるが、ポルトガル語の授業は楽しく過ごせた。全員が聴き慣れない言葉に、四苦八苦する。文法は常に厳格な小関先生が担当、会話はお洒落な婦人で明るい深沢先生が担当した。
ただ、実習は最悪な時間であった。同期生のほとんどは、工場勤務の経験者。俺の専門は電子関係だったので、機械関係はど素人だ。
「先輩、旋盤を扱った経験が無いので、教えてください」
俺は、同室の佐川に頼んだ。
「えっ、本当に知らないのか?」
「いえ、ほんの少し、触ったことはありますが・・。まったくの素人です」
佐川は驚くより、呆れた顔をする。
「この学校に良く入れたもんだ。驚き桃の木山椒の木だな・・」
「はい、だから条件付きの補欠で、入学できました」
「なんだ、その条件付きって?」
「ここを修了しても、一年間の実習が待っています」
「おいおい、そんな条件があったのか、初耳だな」
この話は、たちまち寮内に広まる。夕食に食堂へ行くと、全員が俺を待っていた。俺を酒の肴にしようと目論んでいる様子だ。
ところが、もう一人いた。
「実は、俺も金本君と同じだ」
東京出身の須山が、自分から明かす。俺は、心の中でホッとした。