忘れ水 幾星霜 第四章 ⅩⅣ
「うん、マルシアは見たとおりに、派手じゃない。貰えるお金は少ないけど、不平を聞いたことがない」
「そうか、分かった。オブリガード。千香ちゃん、相談したいことがある」
「輝坊ちゃんの言いたいことは、十分に理解しているわ」
亜紀が自分の買い物を済ませ戻ってきた。頼んであった服を受け取ると、ホテルに引き返す。ホテルには、北島が待っていた。
「お帰りなさい。どちらへ行かれたのですか?」
「あ~、北島さん。ショッピング・センターまで買い物に。疲れたけど、とても楽しかったわ。若いボディ―ガ―ドに守られてね」
「それは、良かったですね。奥さま・・」
「冥土の土産になったわ。主人がやきもきして妬むでしょうね」
夕食は、戻ったばかりなのでホテル内で済ませる。全員が寿司定食を注文。食事中は特に話題も無く、それぞれが、明日の帰国について考えているようだ。一時間ほどで食事を終え、ロビーのソファに場所を変えた。
「北島さん、明日の予定は?」
輝明は、カフェを美味そうに飲んでいる北島へ、質問した。
「あっ、はい。午前中はゆっくりされて、遅い昼食を済ませてから空港に行く予定です」
輝明も北島の顔を見ながらカフェを飲むが、あまりの苦さに顔をしかめる。
「金井さん、一度スプーンでかき混ぜないと・・」
「そ、そうでしたね。いや~、苦かった」
千香と亜紀はマルコスを交えて、少し離れた別のソファで楽しく会話をしていた。半時が過ぎ、北島とマルコスが帰った。三人は部屋に戻る。
残された時間を惜しむように過ごす。話題が途絶えたとき、輝明が気にかけていた事を亜紀に聞く。
「亜紀さん、生活は苦しくないの?」
「ん? 生活・・、特に困ることも無いわ」
「そう、それならいいけど・・」
「・・・」
千香が、輝明の話し方に心が落ち着かず、いらいらする。
「亜紀、肝心な事を聞くね? もし、もしも私の命が・・、短くなったら、直ぐ会いに来てもらえる?」
「・・・」
「最後に、輝坊ちゃんと一緒にいるあなたを見たいの。亜紀にとって迷惑だけど・・。許してね」
「ううん、迷惑じゃぁないわ。行くつもりだけど・・、無理かもしれない」
「亜紀さん、お金のことなら、心配しないで。ボクが、亜紀さんとマルコスの費用を用意するつもりだ。そのときは、北島さんに相談してください。手続きは彼に依頼してあります。先ほど、下のロビーで話し、承諾をいただきました」
亜紀は、しばらく無言でいたが、頷き呟くように返事をした。