謂れ無き存在 ⅡⅩⅢ
俺にとって、家族の絆はゼロだ。求めることもできない。親の顔や性格も知らない。もし、知る機会があっても、俺は断るつもりだ。今更知って、なんの意味も無い。ただ、混迷するだけで、なんの得にもならない。
「先生、家族の絆が運命であれば、絆の無い俺の運命は、どの様に考えればいいのですか?」
「いや、良く考えてご覧、君には大切な施設の仲間の絆があるよ」
「施設の仲間の絆ですか?」
「そうだよ。施設の仲間が家族じゃないのかな? 苦楽を共にして、育ったはずだ」
《そうだ。俺の家族は施設の仲間だ。着るものは順番に使い。食べるものは分け合った。喧嘩はするが、直ぐに笑う。誰かが悲しければ、みんなが一緒に泣いた》
「君の心の中に、彼らを思う気持ちが一杯に満たされている。アルバイトで稼いだ僅かな金額で、クリスマスや誕生日にプレゼントを買って渡しているね。だから、他の仲間も洸輝君を家族と思っているよ。間違いなく・・」
真美が、昼食の用意ができたと知らせた。先生が立ち上がりキッチンへ行く。俺は黙って、後ろに従った。テーブルに着くと、お手製のカツ丼が運ばれてきた。
「うわ~っ、美味そうだなぁ。お腹がグウグウ鳴っているよ」
「熱いうちに食べてね」
「真美も手伝ったのかい?」
「もちろん、手伝ったわよ」
「え~、じゃぁ、味が心配だ」
真美は頬を膨らませ、俺の肩を叩いた。
「何言ってんの、こんな美味しい味付けは、私しか作れませんからね。嫌なら、食べなくて結構よ」
「じょ、冗談だってば。真美の味付けなら最高だ!」
「嘘よ、奥さんの味付けよ。ふふ・・」
ふたりの様子を見ていた先生と奥さんが、笑い出した。
「本当にふたりは仲がいいのね。昨日、会ったばかりと思えないわ。うふふ・・」
「いや、いや、やはり運命の結び付きなんだよ。このふたりは・・」
先生の言葉に、真美が大きく頷く。
「そうでしょう。私が思っても、洸輝は信じないのよ。まったくおバカさんなの・・」
俺は目の前のカツ丼に、涎を垂らすほど神経を集中している。
「はい、はい、誰かさんが食べたくて、目が血走っているわ。さあ、食べましょう」
「は~い、いただきま~す」
真美が俺の体を、肩で小突きながら睨む。俺は無視して食べる。
「ふたりは、面白いなぁ~。家族で一緒に食べているようだ」
「そうね・・。私たちに子供がいれば、こんな感じだったのでしょうね」