ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅵ

「赦免されたお坊さんがお堂を建てたときにじゃ、扉の秘密を許婚の八重に知らせよった。初秋の一週間だけ漁師の雄太と会える。が、必ず約束を守るよう言い聞かせた。扉の向こうは現世ではない。だから、この世の者が足を踏み入れてはいけないのだ。踏み入れば、生死の条理をから外れ、現世に戻れなくなってしまう。  じゃがな、一度だけ助かる方法を教えた。それは、お盆の精霊迎え舟と送り舟の麦わらの燃えさしを、目印の赤い…

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅴ

 その夜に、東京の福沢准教授に電話した。紗理奈の親せきが見つかり、岩崎翁との対話をかいつまんで報告する。 「良かった! 紗理奈の行動が見えてきましたね。その、岩崎家に伝わる話を早く知りたい。紗理奈が、許婚か漁師のどちらかに繋がる訳だ。意外な展開になりましたね」 「ええ、興味深い内容です。ただ、問題は・・、突然に消息不明となり、一年後に死体が発見されたことです」 「もちろん、その謎が解明されないと…

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅳ

 私は冬の寒さに弱い。日本海の厳しい寒さを想像するだけでも、体が凍え行動を鈍らせる。冬の間は、佐渡に関する資料を集め、紗理奈が求めていたものを調べた。気になるものが見つかると、福沢准教授に電話して意見を交わす。  佐渡に遅い春が訪れた。初秋まで五ヶ月、なんとしてもヒントを得たいと思った。私は新幹線で新潟へ行き、新潟港から佐渡の両津港までジェットフォイル(すいせい)に乗り一時間ほどで到着した。  …

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅲ

 背中に悪寒が走り、伝説を肌で感じた。 《一年後に訪れ、確かめることにしよう》  再度、お堂に手を合わせると、その場を立ち去った。東京に戻り、ネットで地方紙に関連記事がないか検索する。やはり、小さな記事が載っていた。  十五年前、岬の伝説に魅せられた若い女性が、お堂の前から姿を消した。当初は、投身自殺の疑いで地元警察が捜索するも、岬一帯からは何も発見できず捜査が打ち切られた。その一年後の初秋に、…

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅱ

「待って、紗理奈さん待って!」 《時間がないって、どうしてなんだろう?》  私は後を追いかけた。岬の上に来たが、彼女の姿が見当たらない。古くこぢんまりしたお堂が建っているだけだ。反対側の道に降りた気配がない。 《これは、どういうことだ。確かにこの岬へ上がったはずだが・・》  しかたなく、私は浜辺に戻った。約束の仕事があるので、昼食を済ませ東京へ帰ることにした。新幹線に乗っている間、彼女の様子を思…

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅰ

 真夏の青い海原と白い砂浜。海辺の心地よい潮鳴りに耳を済ませ、寡黙なふたりは手を繋ぎ歩いた。時折、数羽の海猫が煩わしく鳴き騒ぐ。波際の砂浜には、独りの足跡だけが残っている。砂浜の先に小高い岬が海へ突き出ていた。ふたりはゆったりと登る。岬の上は爽やかな風が吹き、ふたりを先端へ誘う。  ふたりが出会ったのは、昨年の初秋であった。声を掛けたのは彼女が先である。 「気持ちのいい風ね?」  スーッと横に座…

雨宿り  完

【最後の手紙を美佐江さんに捧げる。  私は、これからお国のために戦地へ行きます。決して戻れるとは思っていません。  あの雨の夜に、初めて貴女にお会いできたことは、偶然ではなく運命であると信じて  います。この世に生まれ、初めて経験する異性への思慕。これほど素晴らしい感情を、私に芽生えさせたのは貴女でした。  雨の晩は、貴女に会える喜びに我を忘れ、逸る心を抑え民家の軒先で待ちました。いつしか、雨の…

雨宿り  Ⅴ

 窓から心地よい風が吹き込む。ソファに寛ぎテレビを見ていたが、睡魔に襲われ瞼が重くなってきた。  誰かが私を呼ぶ。その声に反応して、私は目を開けた。目の前に和服姿の美佐江が立っているではないか。何故、彼女がここにいる。私は愕然として目を瞬き、彼女を見詰めてしまった。 「えっ?」 「あなたが、新之丞さんの手紙を持っているのね?」 「・・・・」 「そうでしょう? それは私の手紙よ。だから、返して下さ…

雨宿り  Ⅳ

「さて、ここからが問題なんじゃ。それで・・」  祖父は中庭に目を置き、真剣な眼差しで何かを見詰める。私は近くにある冷水器からお茶を汲み、祖父の横のテーブルにコップを置いた。祖父は一口飲み、喉の渇きを潤すと再び語り始めた。  敗戦の翳りが感じられる頃、新之丞が学徒出兵に召集された。祖父は工学部のため群馬の中島飛行場へ配属されたが、新之丞は文学部にいたので戦地へ。実家の新潟に疎開したらしい美佐江に、…

雨宿り  Ⅲ

 寝汗で下着がびっしょりだった。シャワーを浴び気持ちがさっぱりする。 《あの名前は誰だろうか。腑に落ちない。オヤジに聞けば分かるかもしれないなぁ》  その日の夜、仕事から帰るとオヤジに電話した。 「オヤジさん、元気かい?」 「どうした、お前から電話が来るなんて珍しいじゃないか? まあ、こっちはふたりとも元気だ」 「そう、それなら良かった。それで、ひとつ聞きたいことがある」 「なんだ、聞きたいこと…