ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅰ

 真夏の青い海原と白い砂浜。海辺の心地よい潮鳴りに耳を済ませ、寡黙なふたりは手を繋ぎ歩いた。時折、数羽の海猫が煩わしく鳴き騒ぐ。波際の砂浜には、独りの足跡だけが残っている。砂浜の先に小高い岬が海へ突き出ていた。ふたりはゆったりと登る。岬の上は爽やかな風が吹き、ふたりを先端へ誘う。
 ふたりが出会ったのは、昨年の初秋であった。声を掛けたのは彼女が先である。
「気持ちのいい風ね?」
 スーッと横に座って声を掛けてきた。突然に声を掛けられた私は驚き、横の女性の顔を覗き見た。潮風に彼女の長い黒髪が煽られ、私の顔を優しく触れくすぐる。
《えっ! 美しい横顔だ。誰、この人?》
「そうですね。もう、秋風が吹き、爽やかな風だ」
「驚かせて、ごめんなさい」
「いいえ、別に・・」
 彼女は、遠くの水平線に目を合わせ、なびく髪を抑えながら話す。私はどうしたものかと考えたが、話し掛けた。
「私は、大河内・・、大河内晋介です。東京から来ました」
「・・・」
「ところで・・、あなたは、ここの人ですか?」
「・・・」
 一言も答えが返ってこない。しかたなく、私は黙って前を見た。数隻の漁船が沖に向かって行く。私は座ったまま背筋を伸ばす。体を支えていた両腕が疲れてきた。手を置いていた砂浜の細かい砂を握りしめる。もう一度、隣の女性に話し掛けようと横を見る。
《そんな、いつの間にどこへ行ったんだ。間違いなく、横に座っていたのに・・》
 淡いグリーンのブラウス姿の女性が、小高い岬に向かって波際を歩いている。私は追いかけようか迷った。
《別に、いいかぁ。追いかけたところで、なんになる。なにもないさ》
 私は目線を戻し、水平線に見える蜃気楼を眺めた。北陸の日本海には、度々蜃気楼が海上に現れる。この場所が好きで、夏から初秋かけて毎年訪れる。しかし、あの女性から声を掛けられたのは、初めての経験であった。
 気になり、今日は近くの旅館に一泊した。翌日の朝、朝食を済ませると砂浜に行く。この時期になると人影も疎らだ。ゆったりとした波が打ち寄せる。その時、私の体がざわざわと何かを感じた。
「おはよう・・」
 私は敢えて振り向かずに、挨拶した。
「おはよう・・ございます」
 囁くような声が聞き取れた。私は静かに声の方へ顔を向ける。目と目が合った。
《なんて、涼しい眼差しなんだ。オレの心が見透かされているようだ》
「昨日は、ごめんなさいね。名前は・・紗理奈」
「そう、紗理奈さん。綺麗なお名前ですね」
 彼女は顔を下に向け恥じらう。
「あ~、会えて良かった。それに紗理奈さんの名前も知ることができた」
「うふふ・・、どうして?」
「いいや、昨日お会いしてから、気懸かりで帰れなかった。もう一度、お会いしたいと思ったからです」
「そんなことを言われるなんて初めて。恥ずかしけど嬉しいわ」
 はにかむ様子に、私の心が揺れた。
「宜しければ、昼食を一緒にいかがですか?」
 一瞬、彼女の顔がこわばった。
「ごめんなさい。もう、時間が無いわ。帰らなければ・・」
 彼女は小高い岬に向かって、小走りに去って行った。

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