ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅳ

 私は冬の寒さに弱い。日本海の厳しい寒さを想像するだけでも、体が凍え行動を鈍らせる。冬の間は、佐渡に関する資料を集め、紗理奈が求めていたものを調べた。気になるものが見つかると、福沢准教授に電話して意見を交わす。
 佐渡に遅い春が訪れた。初秋まで五ヶ月、なんとしてもヒントを得たいと思った。私は新幹線で新潟へ行き、新潟港から佐渡の両津港までジェットフォイル(すいせい)に乗り一時間ほどで到着した。
 レンタカーを借りて島内を巡る。佐渡歴史伝説館や称光寺、幸福地蔵などを見学。佐渡歴史伝説館内で、私の興味を引く資料が目についた。
 紗理奈のピンクの紙片に書いてあった【佐渡琴浦】の言葉が、その資料と関連しているに違いない。私の心が高鳴るのを感じた。展示の資料を読むにつれて、間違いなく核心に近づいたと思った。
 お盆に琴浦海岸で精霊船行事が行われている。
 迎え盆に、麦わらで作った精霊迎えの舟(あのひのごんせん)に火をつけて子供たちが沖まで運ぶ。浜に戻るとあの日(彼岸、あの世)の子供たちとして迎えられる。
 送り盆には、各戸から持ち寄った供物を精霊送りの舟(このひのごんせん)に積み、火をつけ沖まで送る。浜に戻った子供たちはこの日(此岸、現世)の子供たちとして出迎えた。
 おそらく、紗理奈はこの行事からお堂に関係するヒントを得たのではないか。私は東都大学の福沢准教授に電話した。
「大河内さん、それは面白い話ですね。初秋の一週間に会えると言われましたよね。初秋はお盆から九月の初めの期間です。旧盆は九月の初旬にあたり、紗理奈さんが消息を絶ったのも、確かその時期だったと思います」
「そうか、そうですよね。ただ、紗理奈さんと琴浦の行事がお堂と結びつかない。私は出身地の相川へ行き、その辺を調べたいと考えています」
「私も同感です。ぜひお願いします。しかし、彼女のご両親は早くに亡くなられ、身近な親戚がいないはずです」
「分かりました。でも、なんとか探したい」
 相川の岩崎姓を探す。十軒ほどの所在が確認でき、一軒一軒訪ねる。六軒目に八十代の元漁師で、紗理奈の祖父と従兄弟という翁に会えた。
「あの子のことは、よう覚えておるよ。不憫な子じゃったのう」
「それで、亡くなる前に会ったのですか?」
「ああ、訪ねて来たよ。賢い子でのう。なんでも・・、岩崎家に伝わる悲しい話を聞きたがっていた」
「えっ、岩崎家に伝わる悲しい話ですか?」
「ああ、そうじゃよ」
「もしかして、岬のお堂に関係しますか?」
「そう、そう、それじゃよ」
 やはり、岬の伝説は紗理奈に関連することだった。
 岩崎翁が、出かける予定があるというので、明日の午前中に再度訪ねることにした。私は急きょホテルに宿泊する。

×

非ログインユーザーとして返信する