ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

雨宿り  Ⅱ

 私はベッドから起き上がらず、そのまま横になり夢の中の状況を考えた。 《やはり現れた。ただ、場所が違う。それに和服姿ではなかった。どういうことだ。このまま毎晩、彼女と会うのだろうか》  幾人かの知り合いに相談する。 「そんなの夢占いで調べてもらえば・・」 「お祓いした方がいいんじゃないの」 「誰かがあなたに恋をしていたけど、何かの理由で亡くなった。でも、諦められずに夢の中に現れる。ドラマチックね…

雨宿り  Ⅰ

 日常で見る夢は、自分本位の希望や憧れなどの空想に過ぎない。儚く散ることが多々あるも、自分の意志によって実現する可能性も否定できない。  眠りの中で見る夢は、決して自由にはならない。意外な展開に現実の感覚が痺れ、あらゆる感情をその世界へ誘惑する。ただ、必ずしも結尾に至るとは限らない。目覚めて安堵するか、苦悩や後悔に陥るかは人それぞれだ。  この数日、奇妙なことに同じ内容の夢を見ている。  突如、…

無題  完

 映写会は雨のために延期になってしまった。しかたなく、本部で見ることになる。フイルムの音だけが聞こえ、全員がボーッと画面を見詰める。 「どうして、喋らないんだ」  勇ちゃんが、オレ達に言った。映写会ではアドリブでやるはずだったが、四人は延期になったために気持ちが落ち込んでしまった。 「うん、最初からやるよ」  敏ちゃんが、ぼそぼそとオレ達に言ったので準備した。貴ちゃんがフイルムを巻き戻し、最初か…

 ア・ブルー・ティアーズ (蒼き雫) 完

 寒い季節も終わりに近づき、春めく日曜日の朝。 「これから渋川に行くけど、一緒にどうだ?」  当直明けの病院から戻ると、妻を誘った。私が突然に言い出したので、八重子は戸惑いを見せた。その様子に笑いを堪える。おそらく行くのを拒むだろう。 「どうしたの急に? だめよ、子供たちが遊びに来るのよ」 「じゃあ、独りで行ってくるから・・」 「どうぞ、お好きなように」  私の行動を理解しているのではなく、三十…

ア・ブルー・ティアーズ (蒼き雫)Ⅳ

 穏やかな元旦の朝を迎えた。全日本実業団駅伝の報道用ヘリコプターのプロペラが、澄みきった空気を切り裂き忙しなく飛んでいる。私は妻の八重子と初詣に高崎観音へ出かけた。ブラジルから帰国して二十五年になるが、高崎観音に毎年欠かさずに参詣している。時折、八重子が他の寺社へ誘うこともあるが、私は頑なに譲らない。  その訳は、父と最後に会話をした高崎駅のプラット・ホームにある。発車を知らせるけたたましいベル…

疑 ? ?

 これは小説ではありません。突然に疑問が湧き書きたくなった。これも?  この世の中は疑問だらけだ。暑ければ? 寒ければ? 雨が降らなければ? 降れば? 生きることも、死ぬことも? 疑問は不思議な感情だ。その感情を持つ人間は不思議な生き物だ。人間ってなんだ? 考える葦? 本当か? 信じられん。腹が空けば死ぬ? 食べ過ぎても死ぬ? 訳の分からぬことを言う?   タバコは間接的に命の危険だと言ってCM…

ア・ブルー・ティアズ (蒼き雫) Ⅲ 

 クリスマスのイルミネーションが町の至る場所に飾られ、彩りの風景が行き交う人々の心を楽しませる。病院でも各階のナース・センター前に、小さなツリーが置かれ患者の目を和ませた。  巡回の折、いつも気にかけている佐藤の様子をナース・センターの画面から眺めている。白く冷たい壁に囲まれ何もない天井を見つめる佐藤の姿。担当の看護師の話では、緊急入院の三日後にアルコールが抜けて穏やかな表情になったという。意識…

無題  Ⅴ

 半世紀前の記憶を辿るのは簡単ではなかった。それも六十数年のたった一年間だけだ。ジグソーパズル全体のイメージは浮かぶのに、肝心な幾つかのピースが脳裏のどこにも見当たらない。大切な記憶のピースを当て嵌めることができず、思い出は蝕まれおぼろげにしか現れなかった。  一町ほどの通りを北に歩きながら、あちらこちらの面影を突きはむ。時折、面影のピースがポロリと現れるが、当て嵌める箇所が思いつかない。オコち…

ア・ブルー・ティアズ (蒼き雫) Ⅱ

 白い雪に覆われた浅間山が陽に輝くほど良い天候であったが、澄んだ秋の空気に冬の冷気が流れ込む夕刻から、冷たい雨模様に変わった。雨は次第に強くなる。  夜十時過ぎに、救急隊から受け入れ要請の電話が入った。 「はい、F病院ですが」 「中央救急の狭山です。三十代の男性が側溝の中に転倒。呼びかけに反応が無い状態です。受け入れできますか?」  私は、当直の藤田先生に報告して受け入れの確認をとる。 「はい、…

ア・ブルー・ティアズ (蒼き雫) Ⅰ

 肌寒の雨模様の静かな夜。  市内の北部環状線に近い病院の待合ロビー。柱の時計が弱々しく九時を告げた。時間を持て余していた数人の患者が、ため息をつきながらゆっくりと病室に戻って行く。  事務所内にいた私は、パソコンの画面から目を離すとしばらく目を閉じた。両手で額を数回摩り、独り言を呟く。 「時計の電池を交換した方がよさそうだな・・。さて、見回りに行くかな」  息をフッと吐き、席を立った。  受付…