雨宿り Ⅱ
私はベッドから起き上がらず、そのまま横になり夢の中の状況を考えた。
《やはり現れた。ただ、場所が違う。それに和服姿ではなかった。どういうことだ。このまま毎晩、彼女と会うのだろうか》
幾人かの知り合いに相談する。
「そんなの夢占いで調べてもらえば・・」
「お祓いした方がいいんじゃないの」
「誰かがあなたに恋をしていたけど、何かの理由で亡くなった。でも、諦められずに夢の中に現れる。ドラマチックね」
なんと、好き勝手に言う。呆れた私は、それ以上の相談を止めてしまった。
不思議なことに、それから一週間ほどは夢に現れなかった。ただ、却って気になり夢を見たいと思ってしまう。苛立ちの日々が続く。
《何故なんだ。散々惑わせておいて、ピタッと夢に現れなくなった》
最初に巡り合った古い民家を探してみる。仕事帰りや暇を見つけては歩き回った。それらしい民家を探すが、しっくり合わない。何かが抜けている。
半月後、特に考えることなく眠りに入った。
雨の中をあてもなく歩いていると、後ろからヒタヒタと足音が聞こえた。私は立ち止まる。足音も止まった。私の背中がスーッと寒気を感じ取った。怖々と振り返り後ろを見るも、誰もいなかった。ホッとするが、急に前から声がした。
「あの~、ごめん・・」
和服姿の女性が立っていた。私は突然のことで肝を冷やす。
「わっ、どど、どうして?」
傘も差さずに立っていたのである。私は近寄り、傘の中に入れてしまった。冷ややかな風が頬を撫でた。
「ありがとう。でも、傘は必要ないわ」
「いや、濡れたら風邪ひきますから・・」
「そこの家で雨宿りするから、平気よ」
彼女は、傘の下から近くの古い民家の軒先へ移った。私はフーッとため息を吐き、彼女の後を追う。
《オレは何をしているんだ。このまま帰ればいいじゃないか》
心に反して、私は意味もなく古い民家の軒先に、肩を並べて雨宿りする。
「あ~、私の名前は・・」
「待って、私はあなたが誰だが知っているわ」
「えっ?」
「大河内 新之丞さんでしょう?」
「はい? 私は大河内 晋介ですが」
「嘘よ、そんな筈はないわ。嘘でしょう?」
凄い形相で私を睨み、目の前から姿を消した。軒先をガタガタと揺らし、生臭い風が吹き荒れた。
瞬間、私は目を覚ましパッと起き上がる。心臓がバクバクと音を立て、めまいがした。
寝る前に閉めた筈の窓が開いていた。外の生温かい風が吹き込み、レースのカーテンが風に煽られている。