私が若月を庇うように、ファミレスを出る。やはり、私たちを見張っていた邪鬼が、ゴソゴソと動き出した。 「相当数の邪鬼が、暗闇で動いている。若月、注意しろ!」 私が、若月に小声で耳打ちする。 「はい、主任」 私たちは雑木林の反対方向へ歩く。明るい商店街の中を、ゆっくり歩いた。その隙に、御堂が雑木林へ向かう。 「よし、上手く行きそうだ」 三人が同時に後ろへ振り向いた。ヤツラには、商店街の明かり…
ただ、私は気になった。高崎の洞窟観音へ行かねば、会えなかったはずの千代さんに会え、この御堂が私たちの前に現れた。 「御堂さん、千代さんにしてもあなたにしても、どこから来られたのですか?」 「ああ、そのことね。前回の雑木林にある冥府の境界線よ」 「えっ、あそこは封鎖されたはず・・」 御堂が、小声で答える。 「だから、小さな道祖神を抜け穴に利用しているの。邪鬼に知られたら大変よ」 「そうか、納得…
「大河内さん、あなたは典侍に会われたでしょう? あの方がとても心配して、私をこの世に送り出したの」 「はい、昨晩話すことができました。でも、御堂さんのことは、何も触れませんでした」 「ええ、分かっています。あなたの家の近くに、邪鬼の群れが集まり、情報を手に入れようと必死だったの。だから、敢えて私の名前を伝えなかった・・」 「それでは、あなたは私たちの味方ですね?」 彼女は頷いた。私たち三人も、…
考え倦んだ末、結局駅前のコンビニする。私と若月は、周りに気を配った。特に車内の人の動きを確認し、一駅ごとに車両を変更。 約束の駅前には、福沢が先に来て待っていた。 「早かったですね・・」 「ええ、その女性に興味が湧き、急いで来てしまいました」 福沢は照れながら、早口で答える。 「主任、間違いなく現れますかね?」 若月が落ち着きなく、そわそわと辺りを見回す。その動作に、危険を感じて叱る。 …
昼時間に、若月が迎えに来た。一緒に食事するが、今夜の約束を話すべきか私は迷う。 「主任、箸が動かないですが、お腹が空いていないんですか?」 「ん? いや、考え事をしていたんだ」 「何をですか? 私に話せば、楽になりますよ」 若月らしいと思った。私は決心する。 「実はな、今朝のことだが・・」 有りのままに、説明した。名刺も見せる。 「そんな美しい女性で、千代さんに似ている。本当ですか?」 …
「もし、差し障りが無ければ、事情を教えて?」 物腰の柔らかな女性だ。年齢がほぼ私と同じくらい。妙に私を魅するので、心がときめいた。 「あ~、う~、・・」 私は戸惑い、言葉が思いつかない。 「これから、お仕事でしょう? 後で電話を頂けますか・・」 小物入れから名刺を出し、私に寄越した。私も名刺入れから抜き、急ぎ手渡す。 「大河内 晋介さん・・ね。じゃ、宜しく・・」 涼しい瞳の視線を受けた。…
私は忘れないように、教えられた番号をメモする。 《しかし、驚いたなぁ。千代さんが現れるなんて・・》 朝までまどろみ、すっきりしないで起床した。熱いシャワーを浴び、眠気覚ましの強いコーヒーを飲んだ。朝食を済ませると、急ぎ駅に向かう。 「なんだろう?」 歩く私に、後ろから強い視線を感じる。振り向くが、通勤の人たちだけ。仕方なく、駅前のコンビニに寄る。棚の陰から外を眺めた。男女の怪しい若者が、中…
食後、それぞれの課題を持って別れた。別れ際に、挑発だけは受けるなと、若月に忠告をする。家に帰ってからも、心配した。シャワーを浴びてから、電話を掛ける。 「はい、若月ですが・・」 「ああ、私だけど。問題無いか?」 「特に、今のところは何もありません」 しばらくして、福沢から電話を受ける。 「やはり、私も狙われているようですね」 「えっ、そんな兆候がありましたか?」 「はい、家の書棚が荒らされて…
「ええ、主任。私も、おやっと思いました」 注文した料理が来る前に、飲み物で乾杯。若月が、気持ち良さそうにビールを飲む。福沢は赤ワインを、味わいながら飲んだ。私は相変わらずコカ・コーラで済ませる。 「ところで、高崎の洞窟観音は、いかがでしたか?」 福沢が、カバンからパンフレットを取り出す。 「これです。いや~、見事な場所でした」 私と若月が、見せられたパンフレットを覗き込む。内容を読んだ私は…
「確かにそうですね。ヤツらの姿が見えれば、襲われても逃げられる。また、反撃できますからね」 若月は、若いし気力もある。しかし、邪鬼の本当の怖さを知らない。私は不安を覚え、彼の向う見ずな行動を注意するつもりでいた。 私たちは、気付いていない素振りを続けた。ヤツは面白がっている。 「若月、ドアが閉まる寸前に降りるぞ。いいな・・」 私は前を見据えたまま、彼に伝えた。 「はい、主任・・」 新宿駅…