ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第一章 ⅩⅤ

「もしもし、千香ちゃん? オレだけど」
「元気だった? 手紙を読んだかしら、どう思う?」
「ああ、読んだよ。体の具合は大丈夫なのかい? 確か、二年前に大腸のポリープを取り除いたよね。関係があるの?」
「うん、膵臓や他に転移したみたい・・。無理しなければ平気よ。心配してくれてありがとう。それで、私の提案は?」
「分かっている。でも、少し考えるよ」
「だめ! 考える必要はないでしょう。気の毒な病人なのよ、私は・・。神戸にいらっしゃい。来ないなら、私が高崎へ押しかけますからね」
 輝明は、千香の元気さと強引に耐えられず、笑ってしまった。
「ハハ・・、分かった、分かったよ。元気で安心したよ。千香ちゃんのお好きなように・・。ところで、相談があるんだ。いいかな?」
 ためらいながら、考えたことを伝えることにした。
「なにか重要なこと? 話してごらんなさい」
《輝坊ちゃんは、おそらく亜紀のことを考えているんだろうな》
「うん、実は亜紀さんに会いたいと思っている」
「そうね、私も同じことを考えていたわ。行きなさい。行って会えばいいわ。北島さんに連絡しておくから・・、でも・・」
「もしもし、どうしたの? 聞こえるかい?」
「聞こえていますよ・・。私も一緒に、行くことにするわ」
「ちょ、ちょっと待って・・。体が心配だ」
「主治医や子供たちに相談するけど、今なら無理しても行ける状態だもの。一度は行ってみたいと思っていた。亡くなった主人も行ったことがあるのよ。良い機会だわ」
 輝明は、心配したが千香の元気な声を聞き、賛成するしかなかった。
「じゃあ、行こうか?」
「うう~ん、ブラジルか! 輝坊ちゃんと一緒だ。最高~!」
「千香ちゃん。あのさ~、亜紀さんを日本へ連れて帰ろうかと考えてもいる」
 千香がなんと答えるか、彼は心配した。
「いいわよ。そうしましょう。だけど、私の家でね」
 いとも簡単に承諾したので、輝明は拍子抜けする。
「だけど・・、亜紀さんが会ってくれるだろうか?」
「輝坊ちゃん! 今更、弱気になる必要はないでしょう」
「幾星霜。年月の流れは、人の心を簡単に変化させてしまうからさ。まあ、そう思っていた方が気が楽かな。来週に神戸へ行くよ。詳しいことは、その時にね」
「分かったわ。駅に着いたら電話してね。でも、私といるときは禁煙よ。いいわね」
「ん~、分かった。止めるから・・」
「そう、輝坊ちゃん、大好き!」
 携帯電話を切り居間に行く、机の引き出しから二枚の色褪せた絵葉書を取り出す。一枚はホノルル、もう一枚はロサンジェルスから送られて来たものであった。
【日毎に、日本から離れて行くのね。必ず日本へ帰ります。待っていて下さい。
それとも、輝君が迎えに来てくれますか】
 その後は音信が途絶え、三十年の歳月が流れた。

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