ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

浸潤の香気 (大河内晋介シリーズⅢ)Ⅴ

 千代は話し終えると、私ひとりで来るよう手招きした。
「若月、絶対に境界線内へ足を踏み入れるなよ」
 彼は渋々と頷いた。私が千代の傍らへ行くと、千代は私を紹介する。
「この人が、例の大河内晋介さんです」
 目の前の端麗な女性から、ただならぬ気品を感じた。私は自然に頭を下げてしまった。
「千代のため・・、世話を掛けるが・・、よしなに・・、頼み入る」
 心地よい声が耳に響く。不思議な声だと思った。
「あの・・」
 私がどう答えようか迷う。
「余計な口出しは、差し控えなさい。もう、境界線に戻ってもいいわ」
 私は不満だったが、仕方なく黙礼してその場を離れた。若月の所へ帰ると直ぐに振り向く。先ほどの女性は姿を消していた。
「若月、あの女性はどこへ行った?」
「あっ、はい。突然に消えました」
 千代が戻ってきた。
「驚いたかしら?」
「あの方は、どなたでしょうか? 普通の人ではない品格を感じたのですが」
「ええ、私が仕えた貴人の内室よ」
「えっ、貴人の内室? 何? 誰? いつの?」
 若月が意外な言葉にびっくりする。私も驚いた。
「私は、江戸初期の宮中で女官として仕えていたの。位は典侍(ないしのすけ)」
「それは、高位の女官ですか?」
「そうね・・、内侍の女官では尚侍(ないしのかみ)の次、二番目かな。京都の皇室をお世話する立場にいた。でも・・」
 千代が暗い顔して落ち込む様子を見せた。
「どうしたのですか?」
「それが・・、助けて欲しい内容なの」
 千代は身に起きた事を話し始めるが、若月がそわそわして私の肩を叩く。
「どうした?」
「あ、あそこで何かが動いています」
 若月が示す方向を見ると、確かにうごめく様子が見えた。それに気付いた千代が、冥府の線から離れるよう指示した。
「あれらは、私たちを狙っている邪鬼の群れだわ。さあ、線から離れて、冥府を閉じるわ」
 私と若月が離れた瞬間、ぱっと閃光が輝きこの世に戻った。若月は初めての経験で、唖然として言葉もない様子。
「あっははは・・、驚いたようだな」
「あ~、眩しかった。まだ心臓がバクバクだあ」
「千代さん、ごめんなさい! それで・・」
 彼女は頷き、語り始める。
「そう・・、事の発端は徳川幕府の鎖国政策。沈香の入手が困難になり、明や朝鮮から入るのは僅かな量だった。殆ど幕府側に流れ、宮中には微々たる量。それも見るからに粗悪品ばかり」
 千代は怒りを発散しきれない表情で話し続けた。

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