偽りの恋 ⅡⅩⅥ
あの人の了解を得ず、ご両親に結婚を申し出たのである。言うまでもない、後日、体良く断わられた。俺は後悔していなかった。
「どうして、先に言えなかったの?」
あの人の視線は、怒りと悲しみ、それに憎しみと憐みが複雑に絡み合っている。
「ごめん、君との結婚は絶望的に思えた。君に言えば、君から否定の言葉を聞くことになる。それだけは、避けたかったんだ」
「そんな・・」
「そう、どちらにしても、君を傷つけることだ。卑劣な男だ、俺は・・」
「もし、私が受け入れると言ったら、どうするつもり?」
その言葉は、俺にとって一番辛い質問だった。
「うん、君はイエースと肯定すると思っていた。だから、敢えてご両親に申し込んだ」
あの人は、首を傾げて考えた。しばらくして、俺の顔を直視する。
「分からない。何故、敢えてなの? 私の何がいけないの?」
「いや、悪くなんかないさ。君に惚れた俺が悪い・・」
「なによ、それ・・」
あの人は、別れの言葉も言わず、俺の前から立ち去った。
あれから一年近くになる。今、あの人が一緒に紅茶を飲んでいる。変わらない姿で、目の前に座っている。
時折、遠くに見える噴水を眺め、小さく吐息を吐く。俺は、その美しい横顔に見惚れ、同じく吐息を吐いた。
「辛いわ、こんな別れなんて。私が嫌いになるか、あなたが私を嫌いになるか、決めてくれない?」
俺は答えられない。俺には、嫌いになる理由が見つからないからだ。
「できれば、俺を嫌いになって欲しい。君の幸せを考える。俺の人生では、君を不幸にするだけだ」
「じゃあ、何が、私の幸せで不幸なのかを、教えて頂だい?」
「・・・」
「どうされたの? 答えられないの?」