偽りの恋 ⅡⅩⅦ
確かに、俺は答えられない。自分の理不尽な振る舞いに、呆れる。
「夢を求めていた時期もあった。でも、君に出会い、夢を諦め君を選んだ」
「・・・」
「今でも、君を諦めたくない。ただ、入院中に考えが変わった」
「どうして?」
長谷川さんの顔と手紙を思い出す。
「一言で言い表せない。でも、幸せの価値観が変わったと言える」
「幸せの価値観?」
「うん、価値観だ。人を恋して、愛を得る。これは生きるために、大切な力だと思う。だけど、愛を叶えるには、相方が必要だ。常に均衡を保ち、どちらかが裏切りや失望を意識したら、愛は崩壊する」
「・・・」
「だから、愛は、幸せと不幸を兼ね備えている」
俺は話しながら、自分の惑乱に気付いていた。
「あなたは、私に失望を感じたの?」
「いや、それは有り得ない」
「それなのに、どうして私を拒否するの? 理解できない・・」
真剣な眼差しに、俺は深いため息を吐いた。
「俺の裏切りだ。それも、とっても卑怯な裏切り行為だ」
「裏切り? 私に対して、何を裏切ったの?」
「・・・」
考えるために、黙った。突如、あの人が目に涙を浮かべる。
「本当は、好きな人がいるのね。そうでしょう?」
思わぬ言葉に、俺は驚く。
「いや、他に好きな人なんて、決していない。今でも、君を愛している」
あの人は、顔を覆い肩を震わせる。俺の心が痛んだ。
「私だって、あなたを忘れられない。それなのに・・、なぜ?」