謂れ無き存在 ⅤⅩⅦ
「ごめんね、大切な品物だったんだ」
それにしても、俺の持ち物は少ない。持っているものはガラクタばかりだった。
「そんなに、がっかりしないで・・。これからは、ふたりで揃えればいいのよ」
「でも、真美の家には、新しく買う物が無いよ。殆ど揃っているから・・」
《古くても趣のある家具だと思う。もったいない気がする》
「いいえ、この家の家具は古いわ。模様替えを考えているの」
「真美の家だから、好きなようにすれば・・」
何かを言うつもりなのか、俺の顔をじっと見つめる真美。
《俺が、機嫌を悪くさせたのか。特に変なことを、言った覚えはないけど・・》
真美は動かない。しばらくして、真美の瞳から涙が零れ落ちた。
《どうして、泣くんだよ》
俺は真美を引き寄せて、胸に抱いた。訳が分からず、慰めの言葉が出ない。
「ばか・・、洸輝のばか・・」
胸の中で、囁くように俺を咎める。小さく壊れそうな、真美の体をきつく抱き締めた。
「新しい家は、洸輝と一緒に作るの。私ひとりじゃ、嫌! これからは、ふたりで夢や希望を育て、楽しい家庭を創るの」
「そうだね、俺が悪かった。寂しい生活は、俺も嫌だ。この先、真美を決して離さない」
「えっ、本当に?」
真美は抱かれたまま、俺を見上げた。涙に濡れる小さな顔が、目の前にある。
《あ~、真美よ。運命によって結ばれた真美。この形の無い感情が、愛なんだろうなぁ》
「そうよ。私はあなたを愛しているわ」
「愛の感情を漸く理解できた。不思議な心の昂ぶりだ。真美、俺も愛しているよ」
真美が唇を寄せる。俺も自然に唇を合わせた。
初めは、優しく触れあっていたが、徐々に激しく重ね合った。そのまま、ふたりは寝室のベッドに倒れ込む。ふたりの感情は、欲望の渦に巻き込まれて行く。それは果てしなく続いた。
絶頂の渦が通り過ぎ、ふたりは愛の感情に委ねる。
「洸輝、運命の人があなたで良かった。私の未来を預けることができたもの」
「俺だって同じだ。真美に会えたお陰で、自分の存在が意識できる」
今までの俺は、自分に自信が持てなかった。この世に必要の無い人間と思い、存在価値を探そうとしなかった。
今は、自分の過去を探し当て、真実の俺を確認できた。そして、今までは単に未来を模索する俺だったのが、夢と希望から新しい未来を築こうとしている。