謂れ無き存在 ⅤⅩⅥ
「う~ん、そうだね。仕事は暇だし、行くことにするかな」
嬉しそうに顔を綻ばせる明恵母さん。
「直ぐに旅行会社へ連絡して、日程を考えなければ。ねえ、真美・・」
「お母さんが一緒なのは、とても嬉しいけど・・。ちょっと残念な気がする」
真美が拗ねる真似をする。
「何が残念なのさぁ?」
意味が分からず、俺は彼女に聞いた。
「あれ、洸輝は分からないの? ふたりの熱い新婚旅行よ」
俺は気付き、一瞬に体中が火照る。明恵母さんとオヤジさんは顔を見合わせた。
「あっ、そうよね。じゃ、今回はふたりだけで・・」
「そんなことないよ、一緒で構わない。ごめんなさい」
真美は慌てて、謝る。
「そうですよ、一緒に行きましょう。真美のお母さんも喜ぶと思います」
「いいじゃぁないか。どうせ一緒でも、真美は平気に振る舞うはずだ」
俺の言葉にオヤジさんが後押しをした。明恵母さんも納得する。
「それから、オヤジさん。家のことだけど、しばらくは箕郷から通います」
「うん、構わないよ。それで、通勤はどうする?」
「大丈夫よ、私もお店で手伝うから、一緒に通うわ」
翌日からは、忙しい日が続く。初めに、市役所へ婚姻届を提出。俺の住所変更も済ませる。その足で、街中の旅行社に行き、旅行の手続きを行なう。
ただ、問題が生じた。真美がアメリカ国籍のパスポートを所有。日本への再入国、その扱いをどうするか旅行社が頭を悩ませた。
仕方なく、今回は時間が無いので、真美は婚姻前の状況で渡航手続きをした。俺と明恵母さんたちは早急にパスポートの取得手続きを行なう。
やはり時間が掛かり、予定の来週には渡航できなかった。
俺は、アパートから箕郷の家へ越した。今まで溜め込んだガラクタを処分。真美が片付けを手伝うも、俺が残しておきたい品物を簡単に始末する。
「おい、おい、それまで捨てるのか?」
「そうよ、欲しかったら新しく買えば・・。これ、昔の彼女の思い出かしら、随分大事に持っているようだけど・・」
「そ、そんな物じゃないよ。ただのお土産だ」
俺の慌てる様子に、喜んでからかう。
「あら、本当? 怪しいな・・」
「それは、施設の事務員のお姉さんが、園を出るときに記念として寄越した」