謂れ無き存在 ⅤⅩⅤ
「いえ、叶わないものを待ち望むより、真相を早く知れて良かった。だから、明恵母さんは自分を責めないでください。母さんの死を明らかにしてくれて、ありがたく思っていますから・・」
「そうかしら・・」
明恵母さんは、済まなそうに顔を下に向ける。
「そうだね、洸輝君の言うとおりだ。いつまでも待ち続けるより、良いかもしれん。これで、明恵をこだわりなく母さんと呼べるだろう」
オヤジさんが、隣に座る明恵母さんを労る。
「私も、洸輝の気持ちが、理解できたわ。やっぱり、洸輝は運命の人ね」
真美が俺の頬に素早くキッスをした。
「おっ!」
「あら、まぁ~、真美ったら・・」
「わっはは・・、やはりアメリカ育ちだなぁ~、真美さんは」
沈んだ空気を、真美が一気に吹き飛ばした。
「洸輝! 次はアメリカね! いいでしょう?」
「うん、そうだね」
「何が、アメリカなんだ?」
真美がテーブルの上に体をのめらせ、自分の考えを告げる。
「私たち、ママの前で結婚するの」
「それで、いつ出発するの?」
「できるだけ早くよ。だって、ミシガンは寒いの。我慢できないくらい寒いわ」
「そんなに、寒いのか?」
「ええ、私が住んでいたバトル・クリークは、五大湖の近くよ。だから、カナダに近いの」
《うわ~、俺は寒いのが苦手だ。行くなら、早く済ませるか・・、来年の春以降にしたいなぁ》
「真美、来年の春以降に行こうよ。渡航の準備も必要だろう?」
真美が俺の腕を抓る。
「い、痛い!」
「いいえ、来週よ」
「え~、来週に? パスポートが無いよ」
「じゃぁ、直ぐに申請しなければ・・」
明恵母さんが興味を示す。そわそわと落ち着きなく、オヤジさんを誘う。
「そうね~、私たちも行きましょうか? ねえ、あなた・・」