謂れ無き存在 ⅤⅩⅣ
「・・・」
真美は何も答えてくれなかった。
《真美よ、俺の心は変わらない。ごめんな・・》
「・・・」
俺はしばらく待ったが、諦めることにした。
「オヤジさん、一本頂きます」
「うん、沢山あるから、何本でも食べていいよ・・」
団子を食べながら、真美の様子を盗み見た。すると、怖々とみたらし団子に触れようとしているではないか。
「どうしたの、真美? 団子が嫌いなの?」
明恵母さんも見ていたようだ。
「う~ん、初めて見る食べ物。これ、どんな味?」
「一口でいいから、食べてみなさい。好きになると思うわ」
彼女は決心し、一口食べた。
「あら、本当だ。美味しい・・」
「でしょう?」
「ええ・・、癖になりそう」
暫くの間、俺たち家族はみたらし団子に集中する。
俺は手元のお茶を飲んでから、考えていたことを口にした。
「明恵母さん、新潟の海には行かない。お墓だけで十分だと思う」
「そう・・、それで気が済むなら、私は構わないわ」
真美が反応した。
「えっ? どうして、行かないの?」
「母さんが生きていた、最後の場所かも知れない。でも、俺にとっては意味の無い場所だよ」
「なぜ、なぜ意味が無い場所と言えるの。洸輝、あなたのお母さんが・・。随分、冷たい考えね」
「いや、誤解しないでくれ。母さんを疎んじるつもりは決して無い。俺にとって、親子の縁を決別した場所と思える。だから、行くのが嫌なんだ」
俺の言葉に、三人は黙って聞いていた。
「まして、母さんが生きていると今日まで信じていた。死に行く母さんの姿なんて、思い描きたくないよ」
「そうよね、私が悪いの。隠し続けるべきだった・・」